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いつもと同じような朝。いつもと同じ通学路。
いつもと同じように目の前を歩く修二を発見した南絵がダッシュで修二に飛びついた。
だが、いつもと違うものが此処にはあった。

「修二君、オハヨー」

「あぁ、南絵。オハヨウ」

ニコニコ笑顔の南絵に爽やかな笑顔で対応する修二。

その様子には通学していた他の生徒は固まってしまった。



塚本修二が笑ってるーーーーー!!!!しかも、メチャメチャ爽やかじゃねぇか!



「あれー?珍しく朝から目が覚めてるんだね?」

南絵にとっては特別な事ではないが、珍しい姿にキョトンとした瞳を向けた。
コンパスの違う南絵の歩調に合わせながら、修二は頷いた。

「まぁ、昨日帰ってから速攻寝たからな。おかげで、夜中の3時に目が覚めたけど」

「えぇ?!そんな時間から起きてるの?眠くない?」

「何時もの朝に比べたら全然眠くないよ」

「そっかぁ…」

妙に南絵は納得して頷いた。
エヘヘと笑う南絵に修二は笑顔を向けた。


そして今日も二人の後ろから、駆け寄ってくる男が居た。

「南絵、オーッス!」

「あ、嵐君おはよう…わわわっ」

振り向きざま嵐に挨拶を返した南絵はまたも宙に舞った。
ただ、今回抱き上げたのは嵐ではなく修二だ。

空振って勢いのまま倒れそうになった嵐は、何とか体勢を立て直し修二を睨み付けた。

「二度も同じ手は食わないよ?」

口元だけに笑みを浮かべて鋭い眼光で視線を合わせてきた修二に、嵐は無意識に一歩下がった。

「なっ…なっ…」

昨日とは打って変わった修二の様子に、嵐は口をパクパクさせた。
そんな嵐から視線を外すと、南絵を片手で抱き上げたまま歩き出した。
嵐は暫くその後姿を呆然と見ていたが、我に返ったように歩き出した。

「何だあれはっ?!昨日とは全然違うじゃねぇかよ!!」

ウガー!と既に見えなくなってしまった後姿に向かって吼えた。

「面白いじゃねぇか。簡単に奪えるようなら楽しくねぇからな」

ニヤリと笑みを浮かべて、握っていた拳をポケットへと突っ込んだ。



そんな三人の様子を後ろからのんびりと歩いてきた男達が見詰めていた。
修二の友達、連と他三人だ。


「へぇ…修二、覚醒バージョンかよ…コレは面白い事になりそうだなぁ…」

「よっぽど南絵ちゃんが大事なんだろうね」

「そりゃそうだろ。南絵ちゃんにちょっかいを出す事なかれ。それが俺らの間の暗黙のルールなわけだし」

「あ、俺良い事考えたー。ちょい、耳かせよ」

男4人が輪になってヒソヒソと会話をしている様子は、なんとも言えず不気味だ。
登校中の女生徒は、道の真ん中で輪になっている男達を遠巻きに避けるように横をすり抜けていった。


「うは!それは面白そうだな!それのった!」

「だろー?結構儲けられると思うんだよな?」

4人はニヤリとした笑みを浮かべて、携帯でどこかにメールを飛ばした。










チラリチラリとクラスメートから向けられる視線をものともせずに、修二は穏やかな笑みを浮かべて南絵と話をしている。
廊下には、噂の男を一目見ようと他のクラス・学年から来た生徒でごった返していた。

夢でも見てるんじゃないだろうか?

半信半疑ではあるのだが、南絵と話をしている修二は紛れもなく本物で。
狐につままれたような表情をしながらも、見た生徒はフラフラと教室へと戻っていった。

「南絵、職員室行きたいんだけど、迷いそうだからついてきてくれねぇ?」

二人楽しく会話をしているところを割って入るように嵐は話し掛けた。

「あ、いいよ?」

そう言って立ち上がろうとした南絵を制して修二が立ち上がった。

「南絵、次の数学当ってるだろ?俺が案内するからちゃんと当るところ確認しておきな?」

「あっ、忘れてた。うん、そうするー!修二君、ありがとう」

慌てて教科書を開いた南絵を見下ろした後、嵐に向かってニッコリと笑みを向けた。

「そういうことだから、俺が一緒に行ってあげるよ。行こうか?」

「お前と行くぐらいなら一人で行った方がマシだ」

ヒクリと口元を歪めながら、嵐はそう吐き捨てて教室から出て行った。


チクショウ、邪魔しやがって。何様のつもりだっての!


ブチブチと心中で文句をタレながら職員室まで歩いていく。
実を言えば、嵐は学校で行動するであろう範囲内の位置は既に覚えてしまっているのだ。南絵と二人になる口実だったのだが、邪魔されてしまったのである。



「お、片瀬じゃん!頑張れよー?俺、期待してるから」

「あ、頑張ってね〜♪」


職員室に行く道すがら、知らない生徒に何故か『頑張れ』と声を掛けられる。
恐らく南絵の事を言っているのだろうが、何故知らない人から応援されなければならないのだろうか?
嵐は訳が分らず首を傾げながらも職員室へと入った。


「あぁ、片瀬君。君に期待をしているんだ。是非とも頑張ってくれたまえよ?」

入った途端、知らない教師から肩を叩かれた。

「え、あぁ…」

怪訝そうな顔をしながら頷くも、やはり訳が分からず首を傾げた。








「南絵、たまには屋上でお昼食べようか」

「うん!天気良いし、いい考え〜♪」

お昼休みが始まった直後、教科書を片付けながら修二は南絵に提案した。
南絵も乗り気なようで笑顔で弁当箱を鞄から取り出した。

それを面白くなさそうに見ているのは嵐だ。
南絵に声を掛けようと思っていたのに先を越されてしまったのだから。



嵐は南絵が一人になるのを待っていたが、修二が殆ど傍に居てなかなかそれには恵まれなかった。
だが、南絵がトイレに行くというチャンスが巡ってきた。
流石に、修二もトイレに行くのは着いては行かず教室で待っていた。
しかも嵐は廊下に居てそれを見ていたので修二は気付いていない。

今のうちに…

嵐は早歩きで南絵へと近寄った。


「南絵、今日の放課後買い物に付き合ってくれねぇか?」

つまりは、デートのお誘いだ。
南絵の隣に居た友人の万理はニヤニヤしながら嵐と南絵を見守った。
周りに居た生徒も、固唾を飲んで南絵の返答を待った。

「あー、ゴメンネ?今日はパパの誕生日なんだー。早く帰って誕生日パーティの準備しなきゃいけないのー」

この返答に嵐は脱力したような顔をして、万理は納得したような顔で頷いた。



嵐はまだ知らない。修二以上に強力なライバルが南絵には付いていると言う事に。





和臣の誕生パーティでの事。
修二も呼ばれていて、和臣にプレゼントを渡していた。
渋い表情をしながらも、渋々といった様子で修二から受け取った。
だが、中を見てパァっと表情が華やいだ。
中に入っていたのは、某有名ホテルのケーキビュッフェのチケットだったからだ。
ゴホンと咳払いをして一瞬崩れた顔を元に戻すと、和臣は修二を書斎へと誘った。


「なんですか?おじさん」

「南絵に言寄っている男が居るそうだな?」

どこから仕入れた情報なのかは知らないが、和臣はそう尋ねて来た。

「えぇ、小学校の頃同級生だって言う転校生が来まして。南絵を落とすって息巻いていますよ」

「どんな男だ、それは」

「あまり話した事がないので良く分かりませんが…見た目は、金髪で目つきが悪いですね。後口調も良くないかと思いますが」

「……そうか…」

渋い顔をしながら暫く考え込み、修二を見上げた。

「目つきが悪いって言うなら、君も相当なものだとは思うがね?」

それには修二も苦笑いするしかない。

「まぁ、何にせよ南絵に付きまとう悪い虫には違いない。南絵に悪い虫が付かないようにしっかり追い払ってくれよ?」

「えぇ、勿論です。全力で阻止させて頂きますよ?」

ニッコリと笑って頷いた修二に、和臣も頷いて。
もういい、と言うようにヒラっと手を振った。



いつもはライバルであるはずの和臣も今回は応援に回ってくれるようだ。


修二VS嵐、本日は覚醒ヴァージョン・修二の登場によって修二の圧倒的勝利に終わった。

しかし、嵐は諦めた様子もない。
二人の戦いはまだ続きそうだ。

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