【12】眠れない夜** BACK | INDEX | NEXT
「では、私は先にお屋敷へ行っておりますので」

街の入口まで空間移動で来た後、リンネが街の様子を見たいと言うのでジルは先にヴラドが住んでいた屋敷へ行く事になった。
またどこかへ行ってしまわないか多少の不安はあったものの、リンネが一緒ならば大丈夫だろうと二人っきりにしたのだ。


「かなり、広いんですね…」

ヴラドと手を繋ぎながらゆっくりと歩きながらそう呟く。

ヴラドの一族が住む場所だと聞かされていたので、てっきり小さな集落だと思っていた。
それが実際来てみると、凄く大きな街であった。
リンネが住んでいたエクスローディスの王都にも匹敵するぐらいの大きさではないだろうか。

「まあな。一族が住むといっても、他の種族も住んでる。うちの一族がここら辺一帯を治めてるってだけだからな」

「そうなんですか…ヴラドさんは、次の王様って事なんですね?」

「別に、王制じゃないから王様とは言わねぇけどな…頭首か。メンドクセェな…」

「大変だとは思いますけど、誰でもなれるものでもないですし。世襲制じゃない一族の頭首になれるなんて凄いですね」

「…俺が王様って事は、リンネは后だからな。お前も色々大変だろうな」

「えぇっ?私が、お后様?!」

「そりゃそうだろう?お前は俺の伴侶だからな」

「あ…そう、なりますよね…」

「まぁ、んな細かい事はどうでも良い。ずっと俺の傍に居ればそれでいい」

「はい。ずっと傍に居させてくださいね」

にっこりと笑みを向けると、ヴラドもリンネに笑みを返した。

その瞬間、道行く人の間でざわめきが起きたが、リンネは何も気付かなかった。

『ヴラドがあんな笑い方をするなんて…』

『あの女性は一体…』

そんな囁きがあちこちから聞えてくる。

道すがら誰もヴラドに話し掛ける者は居なかったが、次期頭首候補のヴラドはこの一帯だけでなく魔界では有名な人物であった。

皆が知っているヴラドと言えば、冷酷で敵とあらば眉一つ動かさず消滅させる人物だ。
それがどうだろうか。隣に居るリンネに対して穏やかな笑みを返し、守るかのようにヴラドの魔力がリンネを包み込んでいる。
まるで夢でも見ているようだった。
しかし、リンネがヴラドにとっての『唯一』なのだと直ぐに分かった。



その光景を建物の影から見ている女性が居た。
その瞳に黒い炎を宿して。











「あ、ヴラド様。頭首がお待ちですよ」

屋敷に着いた途端、ジルが現われてそう告げた。

「あぁ、分かった」

落ち着く暇もねぇな。そう毒づきながら屋敷の奥へと歩いて行く。

広い廊下を歩いていると、沢山の人とすれ違う。

どうしてこんなに沢山人が居るのだろう。

リンネはそう不思議に思いながらもペコリと頭を下げて通り過ぎた。


『ヴラドが帰って来た』

『傍に居る女は人間か?』


すれ違うヴラドとリンネを不躾にもジロジロと見遣ってくる。
その視線の意味はリンネへの好奇だったり、次期頭首を未だに狙う殺意であったり様々だ。

さすがのリンネも値踏みされるかのように見られている視線に気付き、居心地が悪い。
ヴラドから離れまいとギュっと腕を掴んだ。




屋敷の最奥にある部屋。
その前まで来ると人がおらず静まり返っていた。
さっきまであんなに沢山人が居たのが嘘みたいだ。

ヴラドはその部屋の扉をノックする事無く開けると、リンネを連れて中へと入っていく。

外から日差しが差し込むその部屋には、ベッドしかなく、男性が横になっていた。


「よぉ。まだ生きてたか」

ヴラドの言葉にリンネは困ったような顔をして男性とヴラドの間に視線を彷徨わせた。

「お前に頭首の座を明渡すまで死なないわ。ようやくその気になったか、馬鹿息子」

「えっ…」

「こっちに戻ってきちまったもんは仕方ねぇからな。あんたは死ぬまでそこで寝てろよ。クソオヤジ」

「えっえっ?」

「ふっ…私はまだまだ死なんよ。お前はまだひよっこだからな」

「言ってろ」

「それで、そちらのお嬢さんは私に紹介してくれないのかい?」

二人の会話を聞いて混乱している様子のリンネを見遣ってふ、と笑みを浮かべる。

ヴラドはグイっとリンネの肩を抱き寄せた。

「俺の伴侶だ。リンネ、この死にかけは俺の親父だ」

「ヴラドさん。そういう風に言ってはいけませんよ?…お父様、初めまして。リンネです」

柔らかな微笑みを浮かべて頭を下げるリンネに優しい笑みを返した。

「リンネさん。誰に似たんだか性格のひねくれた馬鹿息子だが、これからも仲良くしてやってくれ」

「えぇ、もちろんです」

「ヴラドも、ようやく唯一を見つけたか…少し疲れた。眠る事にするよ」

「あ、そうですよね。お体、大事になさってくださいね」

「あぁ、ありがとう」

ゆっくりと瞳を閉じたのを見遣って、二人は部屋を後にした。






その後、二人はヴラドの部屋へと来ていた。
部屋、と言っても扉を入れば二つ部屋がありさらにはお風呂までついている。
これでキッチンさえあれば家として人が生活できる空間であった。
一つの部屋はベッドのみ。もう一つの部屋にはソファとテーブルが置いてあった。
あまり物がない部屋だ。

ソファに二人腰を下ろして、メイドが持ってきてくれたお茶と軽食を食している。

「頭首って、ヴラドのお父様だったんですね…確か、世襲制ではなかったのですよね?」

「あぁ。一番力の強い奴が頭首だ。うちの血筋は一族の中でも一番多くの頭首を務めてきてる。ま、強い血筋には強い奴が生まれやすいんだろうな」

「なるほど…確かに、そうかも知れませんね。そう言えば、このお屋敷の中、随分人が居るんですね?いつもこうなんですか?」

廊下ですれ違った沢山の人たち。何となく気になっていた。
自分があまりいい風に思われていないのだと、その視線から感じ取る事が出来た。
あまり、居心地がいいものではなかった。
ライズ家に居た頃の自分が思い出される。ヴラドと共に過ごして忘れていた事がじわじわと湧き上がってきて、無意識の内に眉間に皺を寄せた。

そんなリンネに気づいたのか、ヴラドは細い身体を引き寄せると、力強く抱き締めた。

「いや、普段はもっと人は少ない。俺が戻ってきたからな。頭首就任の儀式の為に集まってきてるんだろ。お前が気にする事は何もない。俺だけ見てろ」

瞳を覗き込んで軽く唇を合わせると、リンネはコクリと頷いた。

「いい子だ」

そう言って、ヴラドは再びリンネの唇を塞いだ。

「…んっ…」

味わうかのように深く口付け、口内を蹂躙する。
何度口付けを交わしても飽きる事がない。寧ろ物足りないくらいだった。

「…ヴラドさん…」

唇を離すと、トロンとした瞳でヴラドを見つめてくる。

リンネの首筋へと顔を近づけた時。


―――コンコン

「ヴラド様、宜しいですか?」

扉を叩く声の主はジルだ。


またしても邪魔しやがって…


ヴラドは無視を決め込んでリンネの白い肌に唇を寄せるが、ジルが叩く扉の音が止まない。
出てくるまで、廊下で待っているつもりなのだろう。

チッ…と舌打ちをしてリンネから離れると、扉へと向かって行った。

「何だ」

扉を開けるなりあからさまに不機嫌な声をジルへと投げる。
そんなヴラドを気にする様子もなく、ジルは口を開いた。

「ヴラド様、会合が始まりますのでいらしてください」

「……面倒くせぇ」

「そうは参りません。これから頭首となるヴラド様がいらっしゃねば始まりませんので」

ジルの言葉に深く溜息を付くと、リンネの元へと戻って行った。

「リンネ、ちょっと別の部屋に行ってくるから。遅くなるようなら先に寝てて構わないぞ」

「あ、はい。分かりました」

笑顔を向けて頷いたリンネに口付けると、気だるそうな足取りで部屋から出て行った。


…ホント、落ち着く暇がねぇ…










夜遅くになってもヴラドは戻ってきていなかった。
先に寝ていいと言われたが、何故か寝付けなくてベッドに座り、テラスへと続く大きな窓越しに見える月を眺めていた。

魔界はリンネが想像していたものと全く違うものだった。
太陽や月があり、花も木もある。
もっと禍々しいところなのだと思っていた。

今まで住んでいた世界の別の国ではないのかとさえ錯覚を覚えてしまいそうだった。
魔界で出会った魔族も見た目は人間に似ている。
違いがあるとすれば耳が尖っているところだろうか。
もちろん、魔界と言うだけあって他へ行けば人の形をしていない魔族も居るが、リンネはまだそれには会っていない。



「なんだ。まだ起きていたのか?」

どれくらいぼーっと月を見ていたのだろうか。
ヴラドが部屋へと戻ってきて、背後から声を掛けてきた。

「あ、ヴラドさんお帰りなさい。なんだか、寝付けなかったものですから…」

「俺が居なくて寂しかったとか?」

ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべてリンネへと近寄っていく。

「えっ…そんな事、ないですよ?」

困ったような顔をして、緩やかに首を振る。

「バァカ。そう言う時は、そうだって肯定しておくんだよ」

「そういうものですか?」

「そういうものだ。…寝れねぇなら、眠れるようにしてやるよ」

「どうやってですか?」

「身体動かせば眠くなるだろ」

そう言いながら、リンネをベッドへと押し倒した。

「ベッドの上で運動ですか?埃が舞っちゃいますよ?」

「…お前、この体勢で言う台詞がそれか」

「えっと?…んんっ…」

鈍いのかわざとなのか。ヴラドに押し倒されているのにきょとんとした表情のリンネの唇を深く塞いだ。

「初めて来る場所で色々不安とかあるだろうが、今は俺だけの事を考えてろ」

「…はい」

唇を離して、至近距離でそう囁くヴラドに両腕を回した。

それを合図にリンネの肌に唇を落としていく。
頬、首、胸元。唇が通った白い肌に紅い花を咲かせる。

「ぁっ…ヴラド、さん…」

ヴラドに触れられたところからドロドロに溶けて行くような感覚に陥る。
何度となく抱かれた身体が勝手に反応してもっと、もっとと無意識に求めてしまう。

胸の先端を口に含まれると、そこから甘い痺れが身体中に広がっていく。

何となく物足りない様な気がして、ヴラドを抱き締める腕に力を込めた。

「リンネ、んなに力入れてたら何もできねぇぞ?」

胸から顔を上げたヴラドが意地悪そうな笑みを向ける。
リンネは顔を真っ赤にして慌てて腕から力を抜いた。

「慌てんなって。たっぷり可愛がってやるから」

獲物を狙うかのように、ペロリと唇を舐めながら自分の衣服を脱ぎ捨てる。
リンネの服を脱がしながら徐々に下へと身体をずらしていく。

「んっ」

白く透き通った腿の内側に吸い付くと、ピクンとリンネの身体が震える。
下着の上から溝を撫でると、既に湿っていたのかクチュ、と水音が聞えてくる。

「はんっ…あっ…」

小さい突起を掠めるように撫で上げられ、どんどんと蜜が溢れ下着を濡らしていく。
既に役に立たなくなっている下着が取り払われ、直に触られる。

「すっげードロドロ。気持ち良いか?」

「っはい…あぁん…」

中へと指が進入してきて、内部の敏感な部分を擦り上げる。
ぬるりとした感触が感じられる。熱くなった部分を舐められているのだと、そう思っただけで身体がどんどんと熱くなっていくのが分かる。

「あっあっ…ヴラドさ…もぉっ…」

内部と敏感な突起を攻められ、リンネが限界を訴える。
それに応えるかのように刺激を強くしていく。

「はっ、んっ…あ、あ…―――――ッ」

ギュっとシーツを握り締め、身体を仰け反らせた。

ハァハァと肩で息をしているリンネの唇に軽くキスを落とすと、膝を抱え上げリンネの中へと熱い猛りを挿入した。

「あっ、ヴラドさん待って…はぅんっ」

イッたばかりの敏感な内部に、質量のあるものが入ってきて思わず背中がしなる。

100年もリンネを待っていたのだ。
余裕があるように見えて、ヴラドには余裕なんてなかったのだ。
それでも、リンネに包まれて落ち着きを取り戻したのか、息を吐き出すとリンネを抱き締めて落ち着くのを待った。

抱き合い、肌の体温を感じる事でリンネの中にあった不安がゆっくりと消えていく。
逆に安心感に包まれて、にっこりと微笑んだ。

「ヴラドさん、好きです…」

初めて会った時には思いもしなかった。
こんなに好きになるなんて。
自然に言葉が口からこぼれ、リンネは自分からヴラドに唇を寄せた。

「俺も、好きだぜ?」

「ふふっ…嬉しいです」

そう言ったリンネの顔が綺麗で、ヴラドは深く唇を塞いだ。

ゆっくりと律動を始めると、塞いだ唇から甘い声が漏れてくる。
繋がった部分から甘い快楽が広がり全身を支配していく。
何も考えられなくなって、夢中でヴラドにしがみ付いた。


「ヴラドさん…私を…離さないで下さいね…」

「当然だろ…ずっと傍に居る。嫌だって離さねぇよ」

幸せなのに、時々不安になるのは何故だろう。
気が遠くなるほど長く続くであろうこれからがそう思わせるのか。
幸せだからこそ、後は落ちるしかないという思いが心の何処かにあるのか。

それはリンネにも分からなかった。

ヴラドの動きに翻弄され、次第に与えられる刺激だけで一杯になってくる。
内部の一番感じる部分を擦り上げられ、口からは甘い声だけが発せられる。

「あっ、あっ…んんっ…ヴラドさんっ…あぁぁぁっ」

ヴラドが一際深く突き上げた瞬間、リンネの内部が収縮し身体を仰け反らせた。
ヴラドもまた、リンネの中に熱い欲望を吐き出した。




100年という年月の穴埋めをするかのように、リンネは何度も攻め立てられた。
クタクタになって、眠ってしまうまでヴラドはリンネを放そうとしなかったのである。



抱き合って眠る二人を、窓から入ってくる優しい月の光が照らしていた。

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