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何時か来ると思ってた。


この時が。


この日が。


覚悟はしてた。


…してたけど、やっぱり…。


もう少し、このままでいたいと思うのは私の我侭ですか?














「やった!やったよ雷焔〜〜!!!」

いつものようにいつもの地下室で、今日も今日とて修行中。

死にそうなくらいにハードな特訓の甲斐あって封印の技を短時間で作り上げる事が出
来るようになった。
浮遊術も自分の魔力が切れるまで使う事が出来るようになった。

ほかにも色々、雷焔から術を教わって、回復系しか使えなかった以前が嘘みたい。


「あぁ、やっと完成だな。それにしても、やっぱりフィーアが作っても何の効果も無
さそうだけどな?」

雷焔はちょっと首を傾げながら私の作った光る玉を見つめた。

「うん、何か前に借りた本に書いてあったけど、これに私の血を混ぜないと駄目なん
だって」


後、おばあちゃんが言ってた…んだけど…良く思い出せない。
なんだったかな?結構重要な事だったような気がするんだけどなぁ…?


「へぇ…じゃぁ、ホントの完成はぶっつけ本番になるのか。まぁ、大丈夫だろ」

「うーん。心配だけど頑張る」

「あぁ、俺も出来る限りサポートするから、頑張れ?」

雷焔は小さく笑って、私の頭を撫でてくれた。


もぅ、私子供じゃないんだけどなぁ…。


「さて、この後は時雨との訓練だな」

「うん。今日はハードスケジュールだね」

「辛いか?」

「ううん。もう、訓練場100周も慣れたよ」

にっこりと笑みを向けると雷焔も優しく笑ってくれた。
これだけで私の心は温かくなっちゃうんだからずいぶん単純なものだ。
時雨さんの訓練も結構きつくて、最初は辛かったけど今では慣れたもの。
大分体力ついてきてるんじゃないかな?
筋肉が沢山ついてきたのは微妙だけど…。
最近腹筋が割れてきたしなぁ…
これなら、ギルドに登録しても十分やっていけるんじゃない?なんてたまに思ったりす
るんだよね。


「じゃ、上に行くとするか。今日は俺とも手合わせあるからな?」

「えー…雷焔ともするの?雷焔て頭脳派だから遣り難いんだもん」

「ばぁか。色んな人と手合いしなきゃ成長しないだろ?」

「そりゃそうなんだけど……あれ?」

「どうした?」

急に扉の手前で立ち止まった私に不思議そうにしている。
慌てて笑顔を向けると、雷焔の背中を押して部屋の外へと促した。

「ううん。何でもない。それより早くイコ?時雨さん、時間には煩いから」

「あ、あぁ。」


……気のせい、だよね?なんだかオーブが何時もと違ったように感じた。
怒りと悲しみそんな感じがするのは何時もと一緒。
だけど――――――。

何が違うのか、自分でも良く分からない。
でも、この胸に広がるモヤモヤは何?
焦燥感が広がって酷く不安な気持ちになる。
無意識のうちに雷焔の服の裾を握っていたらしくてポンと頭を軽く叩かれた。

「ホント、どうした?眉間に皺が寄ってるぞ?」

「う、ん…良く分かんないんだけど…ねぇ、頭撫でて?」

雷焔を見上げてそう言うと、よっぽど不安な顔をしていたのか、雷焔は何も言わずに
頭を優しく撫でてくれた。

不安になった時とか悲しい時とか、おばあちゃんが良く頭を撫でてくれた。
だから、誰かにこうして貰えると不安感がなくなるような気がする。


「わわっ何??」

頭を撫でてくれる雷焔の手にちょっとうっとりしてたら行き成り後頭部を引き寄せられた。
気づいたら優しく雷焔に抱き締められてて、びっくりして雷焔の身体を押し返そうとした。
でも、雷焔の腕はそれを許してくれなくて。
ただ顔を真っ赤に染めるしかなかった。

「フィーア。頑張るのもいいけど、たまには弱音吐いてもいいんだぞ?何かが不安なら俺にそう言えばいいんだ」

頭上から降ってくる雷焔の言葉に思わず涙が出そうだった。
凄くドキドキして、でもそのおかげでさっきまでの不安な心が嘘のように消えていった。

雷焔の傍に居ると凄く安心する。
ずっと、傍に居られたらいいのに…。


「うん。ありがとう…もう大丈夫だよ?」

雷焔の胸に預けていた頭を上げてにっこりと笑う。
一瞬、雷焔は目を細めて私を見たけど、笑みを浮かべて私を解放した。

「んじゃ、時雨のところに行くか」

「うん」

雷焔の言葉に頷いて、今出てきた扉へと視線を向けた後、時雨さんの下へと向かい歩き始めた。






「時雨さん、遅れてごめんなさいー」

訓練場に行くと当然ながら時雨さんは既に来ていた。
ちょっと怒ったような顔で私と雷焔を出迎えた。

「おせーよ。この俺様を待たせようなんて良い度胸してるな?」


わわ…時雨さんの顔がヤバイです。
これは、もしかして、もしかしなくても怒ってるってやつですか??


「悪いな。ちょっと、魔術の練習の方が伸びてな」

雷焔はあまり悪いとは思ってないような口調でそう言った。

私の事、話せばいいのに。
それをしない雷焔の気持ちが凄く嬉しくて、ちょっと下を向いて笑みをもらしてしまう。

「遅れた罰だ。訓練所100周!二人共だ!とっとと行って来いー!!!」


「はーーい!行ってきます!!!」
「仕方ねぇな。走ってくるか」

私と雷焔は訓練所100周を目指して走り出した。


100周走るなんて、何時もやってる事。
時雨さんてば罰とか言いながら結局のところはそれをしてない。
やっぱ、時雨さんて良い人だな〜〜。

女ったらしだけど。










「雷焔様、時雨様、フィーア様。国王がお呼びです。」

雷焔と剣を交えている時に、一人の兵士が訓練場へと駆け込んできた。
どこか慌てた様子のその人に、私の不安な気持ちがまた広がった。

「王が?分かった。直ぐに行く」

雷焔も何かを感じ取ったのか、真剣な表情で頷く。


早歩きで謁見の間へと歩き出した二人に慌てて私もついて行く。


「ね、ねぇ…何があったのかな??」

二人の歩く速度が速すぎて、ちょっと小走り気味でないとついて行くのがやっと。
私が声を掛けると、視線だけを二人は私に向けた。

「さぁ、な。良い話ではないだろうな」

「だな。俺と雷焔が一度に呼び出されるなんてよほどの事だぜ?」

二人のその言葉に、さらに不安が大きくなる。
ドクドクと心臓が高鳴って、不安を増長させる。

「それって、やっぱり…」

急いで来たからあっという間に謁見の間についてしまって、次の言葉を言う事が出来なかった。


横に居た兵士が開けてくれた扉から部屋の中へと入る。
玉座にはデューク王が座っていて、厳しい表情で私たちを見つめた。

「王、お呼びでしょうか?」

雷焔と時雨さんが王の前に片膝を付く。
私もそれにならって膝をついた。

「あぁ…お前たちを呼んだのは他でもない。魔王の事だ」

それを聴いた瞬間、私の心臓が跳ね上がった。


いやだ…それ以上、聞きたくない…続きを言わないで…。


「魔王を封印するオーブが先ほど砕け散った。お前たちには明日の朝、魔王の元へと向かってもらう……頼んだぞ?」


『はっ』



魔王…復活…。


目の前が真っ暗になって、もうデューク王が何を言ってるかなんてそれ以上は聞こえなかった。

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