【9】 BACK | INDEX | NEXT
えと…何で私は此処に居るのかな。
空に居るおばあちゃん、見えますか?私は此処です。


「フィーア、ボケっとしてると落ちるぞ?」

「だって!無理、無理!!!」

「いざとなったらちゃんと助けてやるから、もっと集中しろ」

「うわ〜〜〜〜!!雷焔のサドッ鬼師匠ぅぅぅ!!!」

「……そう言う事言ってると、そのまま置いて帰るぞ?」

「嘘?!きゃ〜〜。雷焔、素敵!優しい〜〜〜」

「ホント、集中しないと落ちるぞ?」


雷焔と一緒に街へ出かけてから数日たって、大分私の剣の腕前も上がったと思う。
時雨さんにも雷焔にもビシバシ鍛えられちゃって、もぅ普通の女の子に戻れないなぁなんて思うくらいに。


そっと下を覗いて見る。下に居る人たちが米粒みたい。
ははは…落ちたら死ぬかな。死ぬよね。…………ははは。






「え?集中力を高める訓練?」

「あぁ、そうだ。そろそろフィーアの集中力を高める事もしないとな。魔王と戦う時に失敗されても困るし」

「えと、それってどうやるの?」

そう聞いた私にニヤリと笑みを向けた。


い、嫌な予感…そう思った私は中々イイ勘をしていると思う。というよりも、大分雷焔の事が分かって来たんじゃないかしら。


「ちょ、雷焔なにやって…!」

行き成り雷焔に抱き上げられ、慌てて声をかけるものの、下ろす素振りが全くない。

「何って、抱き上げてるんだろ?これから行くトコ、フィーアじゃチョイ行けないトコなんだわ」

「だ、だからって………何で肩に担ぎ上げてンのよーー!」


横抱きにしてとかなんて贅沢は言わない。でも、せめて背負って下さいっ!!!



雷焔に抱えられて連れて来られたのはお城の一番高い塔の天辺。
自分の足が丁度乗れるくらいの狭いスペースしかない。

「えーっと…此処で、何をしろ、と?」

恐る恐る聞いた私に無情な答えが返ってきた。

「前に浮遊術教えたろ?アレを此処でやるんだよ」

「えっ!だって、まだ数秒しか浮いてられないんですけど?」


そうよ。何度やっても数秒間しかも数センチ程しか浮いている事しか出来ないんだから。そんな私に、ここで、落ちたら死んじゃいそうなこの場所で、やれ、と?


「だから、言ったろ?集中力が足りないって。此処でやれば、危機感が増すから集中力も高まるってもんだろ?寧ろ、落ちたくないって気持ちで頑張ろうって思うだろ?」

「え、え?それって、何かちがくない?」

そう抗議した私の声なんか聞こえない振りして、有無を言わせぬ笑顔で塔の先端へと私を下ろした。
いや、その笑顔は見えないんだけどね。
なんせ肩に担ぎ上げられている訳だし…。


「じゃぁ離すぞ?」

「え、ちょっとまっ」

言い終わらない内に身体から雷焔の手が離れてしまって、慌てて浮遊術を使った。








「も、雷焔無理なんだけどっ」

雷焔が手を離してから結構な時間が経ってる。私にしては上出来な時間だと思う。

「ぁーー。そうだな、そろそろ集中力も切れるだろうし休憩するか」

「流石雷焔。話が分かるー」

そう言った瞬間、グラリと身体が揺れて下へと急降下を始めた。
つまり、浮遊術が解けて地面へとまっさかさま。


「あ、バカ!最後まで気を抜くな!」

「ぎゃ〜〜〜〜〜!!!!!ら、雷焔んんんんんん!!!」

「ぎゃー…って、色気のない叫びだなぁ…」

そう言いながら雷焔が私のところへ急降下してくるけど、こっちの方が落下速度が速くてどんどんと距離が離れていく。

も…ダメ…


ギュっと目を瞑った瞬間、下から誰かが私を抱き締めた。

「ちゃんと集中しろって言ったろ?」

声に目を開けると、私を抱きとめてくれたのは当然だけど雷焔だった。
地面まで数メートルという距離のところで宙に浮いていた。

「え…どうして?」

「間に合わないって思ったから途中で浮遊術使うのやめて此処まで空間移動したんだよ」

「そっか。アリガト……じゃない。雷焔が無茶な事させるからこうなったんでしょー。ホントに地面に激突したら死んじゃうじゃない!しかもこれって効果あるわけ?!」

ゆっくりと地面へと降下していく雷焔の腕の中で思いっきり抗議する。
それでも、雷焔の表情は何処吹く風で。

「ちゃんと落ちる前に助けてやるって。それに、このやり方は俺が実証済みだから安心しろよ」

「あ、安心て……もしかして、まだこれやるの?」

「当然だろ?ちゃんとフィーアの集中力が長続きするまでこれは続けるからな」

「ふえーー。そんなぁ…」

「泣いても無駄だからな?魔王と戦って生き延びたいなら、ちゃんとやることだな」


うううう…なんてスパルタ。はぁ…


雷焔は地面に足をつけると、そっと私を下ろしてくれた。
その瞬間、ガクンと膝の力が抜けてお尻を付いてしまった。

「雷焔…腰が抜けたみたい」

雷焔を見上げる私は多分、情けない表情してたと思う。
小さく苦笑いすると、また私を抱き上げた。

「まったく世話の焼ける弟子だな。一日一回、毎日これやるから覚悟しとけよ?」

「は、はぁい…」

そう言いながら雷焔はスタスタと歩き出した。

「えと、何処行くの?」

「ぁ?地下だよ。この後は地下でお勉強」


……は、ハハ…長い一日になりそうね…。




ってか、だから何で……肩に担ぐの……頭に血が上る……。





「ねぇ…これ、大分割れ目が大きくなってきたんじゃない?」

みっちり地下で扱かれた後、ふと気になって黒いオーブをじっと見つめた。
以前に比べて割れ目が大きく、複雑になってきていてちょっと突付いたら割れてしまうんじゃないかってくらい。

「ぁーー?ホント、だな。割れる日まで後僅かって感じか?」

私の言葉に雷焔もオーブを覗き込んで頷いた。

「そう言えば、前から気になってたんだけどオーブが割れてから出発するんじゃ遅くない?割れた途端に魔王が復活するんでしょ?」

「あぁ、それは大丈夫だ。王族の脱出用の転送装置があるからな」

「え?何それ。聞いた事もないよ?」

「そりゃそうだ。王宮の奥深くにあって緊急時にしか王族ですら見ることが出来ないモノだからな」

「へぇ…それで?それって動くの?」


これってもっともな疑問よね。だってそんな奥深くに眠っている装置じゃ動くかどうかも試してないって事じゃない?


「あぁ。魔王が復活する兆しがあったときに試してみた。ちゃんと狂いなく転送してくれるよ」

「そっか」

最初から魔王の城で待っていたらいいんじゃない?
とかそんな事を思ったけれど、どうやら魔王が復活する城というのは断崖絶壁の大陸から離れた孤島にあるらしい。
瞬間移動が出来る人ならともかく、いつ復活するかも分からない魔王を待ってそこで生活するには非常に不便らしい。
何より士気に関わるからだとか。
なるほど、と納得して小さく頷いた。


魔王復活まで時間がなくなって来てるのか…もっと眠っていてくれていいのにな…。
早く元の世界に戻りたい。でも、まだこのまま此処に居たい気もする。

複雑な自分の心境にこっそりと心の中で溜息をついた。

BACK | INDEX | NEXT

Novel TOP



Site TOP 【月と太陽の記憶】

まろやか連載小説 1.41