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キーンコーンカーンコーン



終了のチャイムが鳴った途端、教室の中が騒がしくなった。
それもそのはず。
今日は中間テストの最終日。2時間で学校も終わって帰れるんだから。
明日は先生達がテストの答案を見る為に学校は休み。
部活動だって始まるのは一部の運動部を抜かして明後日から。
中間は主要5教科しかないから2日間のテスト期間だけど、それでも一週間近くテスト勉強に明け暮れるのだから、テストが終わった開放感に皆が浮かれるのも無理はないのだ。
私だってそう。
この後は恵美と出かける予定になっている。


「あ、かなえ。ちょっと部室に用があるんだ。待っててくれる?」

HRが終わって帰りの仕度を終えた恵美が近寄って来た。

「分かった。私もちょい葛岡先生に用があるから終わったら連絡頂戴?」

「おー。分かった」

そう言いながら恵美がニヤリと笑う。

な、何よ。その笑いは。

「かなえも相変わらずモノズキねぇ」

何ですと?

「ほっといてよ。てか聞きたい事あるんだもん」

そうよ。どうしても今、先生に聞かなきゃいけない事があるのよ。
OZに行ってから随分経つのに、未だに場所を教えてもらってないんだもん。
今日は恵美と一緒に行く予定になってるからメールが届くのなんて待ってられない。
直接聞き出してやるんだから。


恵美とは廊下の途中で一旦別れて国語準備室へと向かう。
先生が居るならそこか、保健室しかない。
テスト終了後だから、かなりの確立で準備室に居るはずだ。


コンコン

閉まっている扉を叩くと、中から先生の声が聞こえてきた。

「失礼しまーす」

中を覗くと、イスごと身体をこちらに向けた先生が視界に入ってきた。
相変わらずのビン底メガネ。そしてそのメガネを半分隠している長い前髪は先生の表情をこれでもかってくらいに隠している。
相手の表情が読めないというのは全く以って恐ろしい。
まぁ、先生に至っては、読めても恐ろしいんだけど…。

「篠崎さん。どうしました?」

あー、今日も先生の声は素敵だね。声は、ね。
うっとりと聞き惚れつつ中へと入ってドアを閉めた。

「ちょっと、聞きたい事があるんですけど…良いですか?」

「これから採点がありますので、手短にどうぞ?」

つまりはさっさとしろって事デスネ?
私だってさっさと済ませてテスト明けをエンジョイしたいから異存ナシですよ。

先生の傍まで歩いて行く。
万が一廊下に漏れたら幾らなんでもマズイ。

「あのですね?OZの場所、教えて欲しいんですけど」

「…何で?」

な、何で行き成り狼発動してんの?
絶対今、室内の気温が5度下がった。間違いない。

「だ、だって。今日これから恵美と行くんですよ?場所が分からなかったら行けないじゃないですか」

「なるほど。これから私が3学年のテストを見なければならないというのに、篠崎さんはOZのケーキにありつこうと。そう言う事ですね?」

狼やら羊やらコロコロ飼えてホント器用だよ。この人。
それにいちいち振り回されてる私の心臓はいくつあっても足りやしない。

「そんなの、仕事だから仕方ないじゃないですか。私の本分であるテスト、頑張ったんですよ?少しは息抜きしたって良いじゃないですか」

「それでは、篠崎さんのテスト、楽しみに採点する事にしましょうか」

うぁ。ヤブヘビ。
いや、多分それなりの点数は取れているハズ。手ごたえだってバッチリだったんだから。

「まぁ、いいでしょう」

そう言って、先生は取り出したサイフから名刺サイズの紙を出すと、差し出してきた。
見るとOZの住所やら地図やらが書いてあるフライヤー。
もしかして、レジの脇に置いてあったのかな?
あー、もう。幾らあの状況だったとは言え、何で気づかなかったかなぁ?
そしたらわざわざ先生に聞く事だって無かったじゃない。

「ありがとうございます」

受け取ろうと手を出すと、スっと紙が遠ざかった。
ちょ、何で?

「まさか、タダで教えてもらえると思ってませんよね?」

へ?どういう事?

「お礼は篠崎さんの手料理で良いですよ?」

と、口元だけにっこり。
うぇぇぇぇ?!手料理?手料理って…

「まさか、約束したの、忘れてしまったのですか?」

「いやいやいやいや。覚えてますよ?当然じゃないですか。そんな可哀想な子みたいな口調で言わないでいただけます?」

や、すっかりそんな事忘れてた。口が裂けてもそんな事言わないけどね。
あんなの、その場のノリだと思ってたんだもん。

「忘れていないのなら結構。明日、楽しみにしてますよ」

はぁ?明日?

「えーっと、それって…?」

「俺んちに来て作れつってんの」

小声で言われたその言葉に、大きな衝撃波が私を襲った。

「うえーーーー?!」

「声が大きいですよ?もう少し静かにして頂けると有難いのですが?」

「だ、だって」

「これを受け取るかどうかは篠崎さんに任せますよ?別に、私はどちらでも構いませんから」

とにっこりと口元に笑みを浮かべながら、手に持った紙をヒラヒラと振って見せる。

手料理はともかく…先生の家とかってどうすんの?!
せめてうちで…駄目だ。お母さんが先生を見たら何て言うか。
絶対喜ぶに決まってる。しかも、根掘り葉掘り出会いやら二人の進展具合やら色々聞かれるに違いない。
それは死んでもイヤ。
そしたら、やっぱ先生の家に行くのが妥当な線なわけで…OZに行くの、諦める?
でも、もう恵美に「すっごい美味しいケーキがあるお店があるの!」なんて言っちゃったしなぁ…。それに、私だってあそこのケーキ、ほんっと楽しみにしてたんだもん。
行きたい。美味しいケーキに癒されたいっ。

「う゛〜〜〜」

「さぁ、早く決めていただけますか?」

せかされ、殆ど反射で先生から紙を奪い取った。

「…それが答え、ですか?それじゃぁ、明日の事は後で連絡しますので」

うあぁぁぁ!
目の前のご馳走に本能的に身体が反応しちゃったよ!!!
もう、私ってばほんっと考えなし。
明日の事とか考えると気が重いんですけど…?


タイミングが良いと言うか、悪いと言うか。
恵美から電話が入ってしまったので、取り合えず部屋を後にする。

明日の事は、明日考えればいい、かな?

取り合えず今はOZのケーキだ!

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