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「なんか、結構遠い?」 「私もこんなに遠いとは思わなかった」 「あんた、行った事あるんでしょ?」 「いやぁ、歩いて行くの初めてなんだけど」 そんな会話を恵美と交わす。 この前来た時は車だったから全然分からなかった。 OZってば駅からかなり遠いんだけど。 駅前のファーストフードで軽く昼食を取った後、OZが始まる時間までウィンドウショッピングを楽しんで。 さて、歩いて程よくお腹がすいたところでケーキだ! なんてワクワクしながらお店に向かったのはいいのだけど… 「ホントにこの道であってる?」 「住所から携帯で調べたから間違いないって」 そう言いながら、携帯で調べて保存した地図をもう一度見る。 うん。合ってる合ってる。 更に歩いていくと、前方にメルヘンちっくな家が見えてきた。 お?あれがそうかな?? 「あー!あったあった。ここだよー」 バラのアーチの前で足を止める。 【OZ】の看板がバッチリかかっていた。 「ここ?なんか、ふっつーの家にしか見えないんだけど。いや、ある意味普通じゃないか」 「うん。お店だって一見分からないよね。ささ。入ろ」 恵美の背中を押してアーチをくぐって店の前に行く。 ヨシ。ちゃんと今回は営業中の札が掛かってる。 ゴシックな扉を引いて中に入ると、白いワイシャツに黒いベストとタイトスカート、ネクタイを締めた女性がメニューを持って近寄って来た。 「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」 「あ、はい。そうです」 頷くと、前に先生と来た時と同じ奥の席に通された。 お店の中にはチラホラと他のお客さんがいて、多分近所なんだろうけどマダムですっって感じの人が多くて、制服の私達はちょっと浮いているような気がする。 今日は窪田さんは居ないのかな? 厨房、かなぁ? 「うーん、どれにしようかなぁ?」 写真付きのメニューを眺める。 どれもこれも美味しそうだなぁ。 「迷っちゃうね」 「うん。どうせなら違うの頼んで半分こする?」 「いいねぇ」 それでも中々決められなくて、じーっとメニューを見ていると恵美は決めたようでメニューを閉じた。 「何にするの?」 「バナナケーキにするわ」 バナナケーキかぁ…じゃぁ、うーん… 「んじゃ、私はベリーのタルトにしようかな」 「お、いいねぇ」 手を上げて店員さんを呼ぶと注文を告げる。 私はベリーのタルトとアッサム。 恵美はバナナケーキとオレンジペコだ。 まず先にポットに入った紅茶と空のティカップが運ばれてくる。 ポットで入ってくると大体2杯分はあるから、お得な気がするのは私が貧乏性な証拠なのかなぁ。 「ねぇ、かなえ。何でこんな店知ってるの?」 やっぱりその質問が来たか。 答えようと口を開いた時。 「かなえちゃん、いらっしゃい」 遮ったのは優しそうな声。 「窪田さん、こんにちわ!」 相も変わらず穏やかそうな笑みを浮かべながら、持ってきたケーキをテーブルに置いた。 「あれ?これ頼んでないですよ?」 置かれた2つのケーキの他にスコーンが2つ。 ホカホカと湯気が立っていていかにも焼きたてって感じ。 うわ…美味しそうv でも、メニューには無かったよね? 「うん。京介から今日連絡があってね。アフタヌーンティ用の試作なんだ。気にせず食べて?」 マジっすか?! いやん。嬉しすぎる。 「ありがとうございます!!」 「焼き立てだから、冷めないうちにどうぞ。じゃぁ、ごゆっくり」 そう言って、窪田さんはカウンターに入っていった。 温かいスコーンを手にとって半分に割るとホカホカと湯気が出てくる。 添えつけのクリームとイチゴジャムを塗って一口。 やっばい。超美味しい。 これが試作品?これならバッチリお店に出せるよ。 「かなえ。あんないい男といつの間に知り合いになったの?」 恵美もスコーンを手にとって、クリームを塗りながらそう聞いてくる。 いつの間にったってねぇ。 「私も会うの2回目なんだけど、何ていうか知り合いの友達っていうか…」 って、ここで言葉を濁してどうする。 このチャンスを逃したら先生の事言う機会無くなっちゃうじゃん。 「あのね?窪田さん、葛岡先生の友達なんだ」 「は?何で葛岡先生の友達と知り合いになれるのよ」 その疑問はごもっとも。 ブルーベリー・ストロベリー・ラズベリーの3種類のったベリーのタルトにフォークを刺すと、先生との経緯を話し出した。 といっても、先生の二重っぷりは隠したまま。 つまりは保健室での話しなんてしないって事。 さすがに、あれは話すのは憚られるんだよねぇ。 「先生と付き合う事になったぁ?!」 目を真ん丸くして驚く恵美の声は非常にでかい。 慌てて制すると、身を若干乗り出して小声で話し出す。 「ちょ、声でかいって…って、何笑ってんの」 「プっ…クククク…だぁって、うっかり口を滑らせて告白とかかなえらしいっつーか、なんつーか」 「自分でも間抜けだって自覚してるんだから笑わなくたっていいじゃない」 そう言いながら、恵美のバナナケーキにフォークを刺して一口奪う。 あ、こっちもめっちゃ美味しい。 「まぁまぁ。良かったじゃん。愛しの声の持ち主と付き合えることになって」 …その言い方もどうかと思うんですけど。 「まぁ、ね」 そう言いながら紅茶を口に含む。 扉が開いたのが視界に入って何気なくそちらに目をやると、信じられないものが目に飛び込んできて、目を見開いた。 な、な、な…なんで… びしっとスーツを身に纏ったその人は、窪田さんに案内されて店内を歩いてくる。 ちょっ、窪田さん!!! 何で隣の席に案内するの?! 他の席だって空いてるじゃない!!!! 声に出せるわけも無く、金魚みたいに口をパクパクさせる。 それに気づいてサングラスを外しながらニヤリと口元を歪めた。 「それでー?付き合ってもう一ヶ月近く経ってるわけでしょ?どこまで進んだ?」 恵美がニヤニヤと笑みを浮かべながら聞いてくる。 ぅわっ、その話題は、今はマズイ! 「え、恵美。こんな場でする話題じゃないし。ね?」 と話の方向を変えようとするけど、恵美はちっとも聞いちゃいない。 しかも、隣に座った人なんて気にする様子も無く、視線すら向けようとしない。 「だってさぁ、気になるじゃない?あの先生だよー?」 まぁ見た目の話をしてるだろうし気持ちは分かるんだけどさぁ。 今は勘弁してよぉ。 「女慣れしてなさそうじゃん?キスもまだだったりして?」 「だから、恵美。それは…っ?!」 恵美の話を遮ろうとした時に突然携帯が着信を告げた。 「メール?」 「ん、そうみたい」 受信トレイを見てギクリと肩が揺れる。 み、見たくない… 恵美に気づかれないように横目で見ると、そ知らぬ振りして煙草を吸っている。 送信者:京介 題名:無題 本文:随分と面白い話してんなぁ? ひぃぃぃぃぃぃぃ! 見なきゃ良かった!!!!! 反射的にパタンと携帯を閉じると、恵美が不思議そうな顔をしてくる。 「何?返信しないの?」 「う、うん。後でいいよ」 そう答えるとまた携帯が鳴った。 送信者:京介 題名:無題 本文:シカトか?いい度胸だな この状況でどう返事をしろと?! やっぱり返事出来ないで居る私に、恵美は尚も聞いてくる。 「迷惑メールとか?」 「や、そんな事は決して」 「何、その返答」 クスクスと恵美は笑うがこっちはそれどころじゃない。 迷惑メールだなんて肯定した日には何が待ってるか…。 「まぁ、いいや。それで、先生との話なんだけど…」 ぅおい。まだその話続けるの?! 「も、もうその話はいいよ。それよりさ、隣…」 今度こそしっかり身を乗り出して、恵美の耳元で囁くと、やっと隣に居る人物に気づいたらしい。 「やだ。もしかしてケイ?」 ヒソヒソ声で話してくる。 流石に恵美も本人を前にしては大きな声で話さないらしい。 「そうみたい」 みたいっていうか、バッチリ本人ですけど。 「かなえ、声掛けたら?その声が大好きなんですぅって」 「ば、馬鹿か」 「ホントの事じゃん。声掛けるチャンスなんてそうそうないよ?」 それがあるんですヨ? 恵美だってほぼ毎日会ってるデショ? なぁんて言えるわけもなく。 「や、遠慮しとく」 そう言いながら再度横目で見ると、同じく横目でこちらを見ていた先生とバッチリ目が合った。 さらに笑みが深くなるのを見て慌てて目をそらせた。 隣だもん、声を抑えたってバッチリ聞こえちゃってますよね?ですよね…。 ケーキは美味しいけど、早くお店から出たいっ 誰か、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ。 |