時空の刻印

 

それから、ヴラドは頭首として役目をそれなりに果たしていた。
良い頭首かと言われるとそうとも言えないが、ヴラドに恐れをなして他から大きな戦いを挑まれる事が少なくなった。
全く平穏とは言えないが穏やかな時代を一族は過ごす事が出来た。

命の花より与えられた時空の刻印によってリンネは長い間ヴラドの傍に居た。
戦いに出たときも傍でサポートし、いつしか一族からも一目置かれる存在となっていた。

二人は気の遠くなるほどの長い年月を変わらずに、いや寧ろ更に愛を深めていた。
二人の間には、三人もの子供が生まれていた。

今は既に三人は二人の手から離れている。
他の一族へ嫁いで行った娘と、次期頭首候補に上がっている息子。
頭首になど全く興味がなく、アスヴェルの元へと師弟関係をねだりに行って戻ってこない息子。

彼らが幼い頃は大変だった。
自分の子供が可愛くないとは言わないが、大して興味が無い。
ヴラドの全てはリンネに注がれているから。
時には子供とリンネを奪い合うなんて事もしばしば。

最近まで娘の結婚の事で揉めていたのだが、それも落ち着いた。
やっと二人きりの生活が戻ってきたのだ。

 

「リンネ、何してる?」

「何って、見て分かりませんか?」

リンネは読んでいる本を掲げて見せた。

「それは見れば分かるが・・・今何時だか分かってるか?」

「え?」

問われて窓の外へと向けると、随分と高いところまで月が登っていた。

「結構遅い時間ですね」

いつの間にこんなに夜が更けていたのだろう。
苦笑いを向けて、ベッドに座るヴラドの元へと近寄る。
しかも、ヴラドがいつこの部屋に戻ってきたかなんて気づいていない・・・とは口が裂けても言えないだろう。

「本を読むのもいいが、そう言うのは俺が居ない時にしろよな」

「ごめんなさい」

リンネはヴラドの膝の上に座ると、首に腕を絡めてキスをする。

長い事一緒に居るのだ。
リンネも大分変わってきていた。
自己主張もするし、我侭だって言う。時にはヴラドと喧嘩だってするのだ。
信用しているから言い合える。対等な関係を築き上げていた。

遠い昔、グラン家の一員だった頃。
相手の顔色を伺って、何も言えなかった。
常に自信がなかったあの頃の自分がこんなにも変われるとは。
これもヴラドのお陰だと、出会えた奇跡に感謝したい。

薄く開いていたヴラドの口内に舌を差し込むと、拙い動作で相手のソレを絡め取る。
ヴラドは助けることもせず、リンネのやりたいようにやらせた。

唇が離れた時、ニヤリと笑みを浮かべた。

「相変わらず、ヘタクソだな」

そう言って、再びリンネの唇を深く塞いだ。

「んっ・・・はぁ・・・」

触れ合う舌先から、熱が全身に伝わっていく。
数え切れないくらいに口付けを交わしても、深く口付けられれば翻弄されて頭の中が霞がかってくる。

唇を離すと、頬や首にキスを落としていく。
時折柔らかい肌を吸い上げ、紅い所有の証を散らしていく。

「はぁ・・・ぁ・・・」

器用な指がボタンを外して行き、素肌に手を這わしていく。

「ヴラド・・・さん・・・」

大きな手で胸を覆われ、掌で優しく撫でられる。

「触ってねぇのに、もう固くなって俺の事誘ってんな」

耳元でククっと笑われれば羞恥で顔が赤くなるのが分かった。

「やだ・・・そんなこと・・・ぁん・・・」

胸の先端を摘まれて、ビクリと身体が反応する。
一から全部ヴラドに仕込まれた身体は、理性とは関係なく簡単に手の中に堕ちて行く。

深く交わる口付けの合間にも、胸を甚振るのとは別の手が、腰から下へと滑り降りる。

「んっ・・・ふ・・・」

甘い声が鼻から抜けるのを、リンネはぼんやりとした頭の片隅で感じていた。

「あっ・・・っ・・・ぁ・・・」

太腿まで降りてきた手が、内腿を強く撫でた後、更にその奥へと侵入を開始した。

「・・・これじゃ、下着なんて役に立ってないな」

「はぁんっ・・・」

下着の上から秘所へと指を這わすと、ヴラドの言葉通り、下着が意味を成さないほど濡れていた。
下着の隙間から、指を差し込まれ、ギュっとヴラドの衣服を掴んだ。

「ぁ・・っ・・・はぁん」

内部へと侵入してくる指を拒むように、キュと中がすぼまる。
それを気にせず強引に差し入れた。

狭い下着の隙間から、いつもの角度とは違う指が中を蹂躙していく。

「ぁ・・んっ・・・はぁっ・・・」

「すっげ、大洪水だな」

笑いながら、リンネの口端を舐め、唇を啄ばんだ。
内部の指を曲げて、角度を変えると、リンネの身体が一層震える。
体中をめぐる甘い刺激に身を委ねて眼を閉じると、感覚がより鋭くなるのを感じた。

「んっ・・・あぁ・・・はぅ・・・」

「何?もうイきそう?」

耳たぶを甘噛みしながら囁くと、コクコクと頷いてくる。

「んじゃ、好きなだけどうぞ?」

そう言うと、内部の指をより激しく動かした。

「あっ、はぁっ・・・んんっ・・・!!!」

リンネの身体が激しく震えた後、ぐったりとしてヴラドに凭れ掛かってきた。

 

「ん・・・?」

次に目を開けると、既にリンネもヴラドも何も着衣しておらず、ヴラドの上に覆いかぶさるように寝転がっていた。

「ヴラド、さん?」

「起きたか」

「はい・・・」

「んじゃ、続きだ」

チュと音を立ててキスをすると、リンネの身体に手を回して上体を起こさせた。

「えっと・・・?」

「今日は、リンネが上な?」

ニヤリと口元に笑みを乗せてそう言うと、リンネの顔は真っ赤になった。

「う、上って・・・その・・・」

「たまにはこういうのもいいだろ?」

「でも・・・」

ヴラドの太腿の辺りに座り込んで、視線をさまよわせる。
どうしようかと思案していると、お尻を撫でられた。

「ひゃっ」

「ほら、自分で入れるんだよ。出来るだろ?」

躊躇しているリンネの腰を持って身体を浮かせると、立ち上がっている高ぶりを入り口にあてがった。

「後は腰を落とせばいいんだ。簡単だろ?」

なおも躊躇するリンネに、腰を軽く叩いて先を促した。

「はっ・・・ぁぅ・・・」

ヴラドがするのと違って、ゆっくりと入ってくるそれは、いやに感覚がリアルに感じられる。
ペタンと最後まで行き着くと、はぁっと大きく息を吐き出した。

「座ってるだけじゃ、最後までいかないぞ?」

「っ・・・分かってますっ・・・ぁっ・・・・」

恐る恐る、ゆるゆると緩慢な動きで上下に動き出すと、それを楽しむかのようにヴラドは下から見上げる。

「ぁん・・・」

ゆらゆらと揺れる両方の胸を包むと、ゆっくりと揉みしだいた。
掌で形が変わる柔らかいそれの感触を楽しむように、何度も繰り返す。

「いい顔してる」

艶っぽい眼でリンネを見遣り、その顔に手を添える。
親指で唇の輪郭をなぞると、薄く開いた中に差し込んだ。

「ふっ・・んん・・・」

差し込まれた指を夢中で舐める仕草にゾクゾクしたものがヴラドの中に生まれた。

「リンネに任せてると、いつまでたってもこのままだな」

「だったら・・・あぁんっ」

ベロリと自分の唇を舐めると、リンネの腰を掴んで下から突き上げ始めた。
突然の刺激についていけず、リンネの目尻に涙が浮かぶ。
どんどん激しくなる律動に、前にグラリと倒れそうになって慌ててヴラドの胸に手をついた。

手加減など一切しない動きに、自分の体重と相まっていつも以上に深く奥に突き刺さる質量に、既にリンネは限界寸前だった。

「あっぁつ・・・ヴラドさ・・・もぉっ・・・」

あまりにも激しい刺激に、首を振ると涙が数滴飛び散った。

「あぁ・・・イイ、ぜ・・・っ」

更に激しくなる律動に、ギュっと眼を閉じる。
最奥まで突かれた瞬間、ガクガクと身体が震え、熱を体内に感じると同時に意識を彼方へと飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠とも思えた幸せな時間は、いつしか終わりを迎えようとしていた。
ヴラドの父親がかかった不治の病。
それにヴラドもかかったのだ。

ベッドで眠るヴラドの傍らで、リンネは椅子に座ってその寝顔を眺めていた。

苦しそうにうめくわけでもない。
身体の自由は利かなくなるが、静かにその命が消えるのを待つだけの病気。

ヴラドを見ながらリンネはふと思った。
この病気は、長い時間を生きる魔族を増やさないためなのではないかと。

永遠とも思えるその命は、自然の摂理に反しているから。

「ん・・・リンネ?」

「ヴラドさん、起きたんですか?」

うっすらと眼を開けたヴラドをリンネは覗き込んだ。

「そんなとこにいないで、こっちにこいよ」

ポンと隣を叩かれるとそれに頷いて、ヴラドの隣へと潜り込んだ。

「リンネはあったかいな」

「ヴラドさんも暖かいですよ」

腕枕をされて、胸に頬を摺り寄せた。

他愛も無いお喋りをしていると、ヴラドのまぶたが眠そうに何度か閉じられる。

「眠いなら、寝てもいいですよ?」

「あぁ・・・少し、疲れた・・・」

そう言って眼を閉じたヴラドを見た後、リンネも目を閉じる。

「私も、眠くなってきましたね・・・」

ヴラドの温もりを感じるように抱きついて、そのまま意識を闇に溶け込ませた。

 

 

 

 

――――――――ヴラドさんが居ない明日なんて、生きている意味ありませんから

 

 

 

 

ヴラドとその伴侶であるリンネは、最高の頭首だったと後々まで一族の間で語り継がれる事となる。