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就任式が終わった後、LHRがあって入る委員会を決める事になっている。
校庭から教室へ行く途中、何の委員会に入ろうかとかどれにも入りたくないだとかそんな声が聞こえてきていた。

「かなえ、委員会どうするの?」

「うーん、どうしようか迷っているんだよねぇ」

出来る事なら、先生の声を沢山聞きたいんだよね。
あの声!直球ど真ん中だよ?!見た目なんてどうでも良くなっちゃうくらいの魅惑ボイスなんだよーっ。もぅ、腰砕け状態。私を声だけで殺す気ですか?!って感じだよ。
あの声になら殺されてもいいっ。殺されちゃうまで聞いていたいっっ。
…って、私ってばこんな変な趣向だったの?…何か、微妙にショックだわ…。

先生の声を沢山聞くためには、学級委員になるのが一番だと思うんだよね。
担任と学級委員。色々と接点が出てくるわけだし…
でも、でもよ?私リーダーシップとるのとか好きじゃないんだよね。
学級委員になれば何かをクラスで決める時には前に出て進行役にならなきゃならない訳じゃない?
それに、学級委員て生徒会の会議に出席しなきゃならないんだよねぇ…他の委員会と違って昼休みとか放課後とかが潰れる可能性が高いわけで…はっきり言って面倒。
あーーでも、先生と他の人より多く話す機会があるのは学級委員なんだよね。

むー…困った…先生を取るか、面倒じゃない方を取るか…

あぁっ!!!決められない〜〜〜〜〜

何でうちの学校には教科の係りがないの??!
あれば迷わず国語係選ぶのに〜〜


「…ぉーい、かなえ?何トリップしてんの?」

「えっ?!あっ、ゴメン」

恵美に覗き込まれて、我に返った。
気づけば教室まで来ていて、恵美に呆れた顔をされてしまった。

「何そんなに悩んでんの?たかが委員会でしょ?」

「いやぁ…中々決められなくってね」

アハハ。と笑って誤魔化してみる。
どうやら誤魔化せていないらしく恵美は目を細めて私を見つめてきた。

うぅっ…恵美のこの眼、何でも白状したくなっちゃう気分にさせられるのは何で?
別に先生の事、好きになっちゃったって事は言ってもいいけど…先生の声で殺されてもいいって考えてましたー…なんて恥ずかしくて言えないっての。


「二人とも何やってんだ?HR始めるから教室に入れー?」

教室の入口で立ち止まっていたら、先生が教室に向かって来ていて声を掛けられた。
教壇側とは反対の入口から教室へと入って、席へと着いた。

先生グッジョブ!ナイスタイミングだよ〜〜。
お陰で恵美から逃れられたよ。


「このHRで委員会を決めたいと思います。各委員会を決める際には学級委員に進行してもらおうと思うので、まずは学級委員から」


先生の声が近くに聞こえて、思わずうっとりと目を閉じてしまう。

ホント、この声好きだわぁ…この席で良かった。

なんて数十分前とは全く逆の事を思った。
全く、現金よね。私ってば。


「立候補者は居るか?」

先生がそう言うが、手を上げる人は誰も居ない。

そりゃそうだよね。これから受験が待っているのに学級委員なんてなったら勉強する時間が減るもんネぇ…
私は、どうしよう…まだ答えが出てないよ…

「立候補者なし、か。じゃぁ、先生が決めてもいいな?」

クラスメートから推薦されるよりはマシだと思ったのかもしれない。
誰もそれに依存はないようで、それぞれが肯定する言葉を先生に向けていた。

えっ。ど、どうしよう。今更立候補なんて出来ないよぉ…

自分の優柔不断さに自己嫌悪に軽く陥りながら、ため息をついた。


「じゃぁ、目の前の二人。学級委員やってくれるかな?」


……は?今、何て…?


「えーーっ。先生、何で俺なんだよ」

隣の席の須藤君が不満ありげな顔でそう言う。

「タダ単に私が覚えやすいって言うだけですね。何しろ赴任してきたばかりですし、名前と顔が一致する生徒が一人も居ないので」

言葉づかいは丁寧なんだけど、妙に迫力があるっていうか、有無を言わさぬ何かがあるっていうか…あの声には魔力が秘められてるんじゃないの?

言われた須藤君はぎこちないながらも頷いて立ち上がった。

「篠崎さん?もう一人はあなたですよ?」

「あっ、はい」

慌てて立ち上がって、須藤君の隣へと立った。

やっぱり、さっきの聞き間違いじゃなかったんだ…


結局のところ、私が悩もうが何だろうが学級委員になる運命だったの?
良く分んないけど、とりあえず先生に顔と名前、覚えてもらった第一号って事だよね。
……これって、チャンス?


須藤君は何だかんだいって、結構仕切り屋タイプだったみたい。
私に板書を任せて各委員を決める進行を買ってでてくれた。

委員会を決めるのは立候補制。
自分のやりたい委員に手を上げて、男女1名ずつ決めていく。
人数がダブったらジャンケンで勝った方がやれる事になる。
美化委員だけは特別で、生徒全員が委員会に入る決まりになっているから他の委員になれなかった生徒は皆美化委員になってしまう。
特別清掃とか言って普段じゃやらないような場所をさせられるんだよね。
だから皆他の委員になろうと必死なの。

…嫌だったら始めに学級委員に立候補すればいいのに…とか思うけど、学級委員もやりたくない委員の一つなんだろなぁ…


「各委員も決まったところで、今日のHRを終わりにしたいと思います。日直は明日から、名簿順に行っていくので朝忘れずに日誌を取りに来てください。それでは皆さん、気をつけて帰ってください」


先生の言葉と共にダッシュで一人の男の子が出て行って、他の人も教室から出ていく。
皆まだ家には帰らないで街で遊んだりするんだろうな。
私も恵美と遊ぶ約束あるから早く帰る準備しなくちゃ。


「篠崎さん」

「あ、はい」

筆箱をバックに仕舞おうとしたところで、先生が声を掛けてきた。

「申し訳ないのですが、今日決めた委員をこの紙に書いて持ってきて欲しいのですが」

わわわっ!先生が近くにっ。

私の席横に立って、机に紙を置いた。
腕が触れそうな位に近い距離で、ドキドキと心臓が高鳴ってくる。
顔が赤くなってしまわないように、必死にココロを静めようとする。

「はい、分りました」

そう言って顔を上げて先生と視線を合わせる。

…合わなかった。

こんなに距離が近いのに、全くもって先生の目が見えない。
一体どれだけ目が悪いの?!ってぐらいに分厚い眼鏡に阻まれて、先生と目が合ったんだか合ってないんだか分らない。
流からして、恐らく目が合ってると思うんだけど…

「じゃぁ、職員室に居ますので終わったら持ってきてください」

そう言うと、先生は教室から出て行った。

「かなえ、ついてないねー。学級委員に任命されて、しかもイキナリ仕事?」

恵美が鞄を持って来ると、須藤君の席に座って私の方へと向いた。

「うん、悪いんだけど待っててもらっていい?」

「別に、待つことぐらいどうって事ないからいいけどね。マッハで書き上げてね」

いいって言いながら早くしろの催促ですか。
私も早く遊びに行きたいからマッハで書き上げちゃうよ?

「あれ…書き終えたら黒板も消してねって事???」

紙に写し終えて帰る準備をしている時、ふとそんな事が頭をよぎった。

やっぱ、消さなきゃ駄目だよねぇ…
印象良くしたいし、ここはやはり消しておくべきでしょう。

立ち上がって教壇に上がると、黒板消しで綺麗にしていく。

「おお?!なんか、かなえがいい子チャンじゃん。どうしたの」

恵美は全く手伝う気もないみたいで入口のところで私を待っている。

「詳しくは後で話すよ…てか、こういう時に手伝ってくれるのが紳士ってもんじゃない?」

「残念。私は花も恥らう乙女ですから。紳士のたしなみなんて知らないなぁ」

「友達甲斐のない奴ー。日直の時とか手伝ってあげないよ?」

「フフン。そんな事言って、手伝ってくれちゃうのがかなえの可愛いところだよね」

「もう!調子良いんだから」

笑いながら恵美と一緒に職員室へと向かう。
校舎には殆ど人が残っていなくて、こういう日にも練習がある運動部の人たちの声だけが遠くから聞こえてくるだけで静かなもの。
窓から校庭を見ると、野球部の人たちがランニングをしていた。

恵美を廊下に残して職員室へと入っていく。

先生の席はどこだろう?

入口で職員室を見渡すと、一番端のところに先生を見つけた。

「先生、写し終わりました」

「あぁ、有難う」

先生はにっこりと笑って―――と言っても口が笑みの形をしてるから笑っているだろうと推測しているんだけど―――紙を受け取った。

「篠崎さん、綺麗な字ですね」

「え、有難うございます」

先生に褒められたっ。
あの魅惑の声で褒められるってなんて気持ちいいの?
足の痺れに耐えながら習字を習ってた甲斐があったーー!!

「じゃぁ、気をつけて帰ってくださいね」

「はい。先生」

先生に頭を下げると職員室をあとにする。
待たせていた恵美と合流して街へと繰り出した。







「え?かなえ、先生が好きなの?」

「先生っていうか、先生の声がね。聞くだけでドキドキしちゃってー」

ファーストフードのお店に寄って、お茶を飲みながら恵美に自分の気持ちを告白した。
流石に、声で殺されちゃいそうだなんて言ってないけど。

「声、ねぇ…かなえって声フェチだったんだ?」

「フェチって何よー。たまたま、好きになったポイントがそこだったってだけだよぉ」

「へぇ…それにしても葛岡先生ねぇ…見た目とかちょっとどうかと思うんだけど」

「もう、そんなの気になんないくらいに声がいいんだって!耳元で囁かれたら絶対死んじゃう」

…ハッしまった!
そう思ったときには時既に遅し。
恵美にニヤリと笑われてしまった。

「そんなに好きなんだ?一目ぼれ?や、違うかヒトギキ惚れ?」

恵美、思う事が一緒だし…。

乾いてしまった喉を潤すように一気にお茶を飲み干した。
ちょっと好きになった理由が理由だけに、恥ずかしい。

「まぁ、卒業まで後1年だし?頑張ってみたら」

「うん、アリガト」

そこで協力してあげるって言わないところが、恵美のいい所なんだよねぇ。
相手が相手だけに、あんまり大きな声で言いたくないし、目立つような行動はしたくないし。
やっぱ、一人で頑張るのが一番だもんね。


1年かけて先生にアピールして卒業式に告るってものありだし、幸いにもライバルは出来なそうだし気長に頑張りますか。

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