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二人が修二の家に戻ってくると、玄関ではマメが座っていて、可愛い声で鳴いて二人を出迎えた。

「マメ〜。ただいま♪」

南絵はマメを抱き上げると、チュと鼻の頭にキスを一つ。
ゴロゴロと喉を鳴らして頬をすり寄せてくるマメにくすぐったそうにしながらも頬を寄せ返す。

まるでネコが二匹じゃれているような光景に、修二はフと笑みを浮かべその横をすり抜けた。
キッチンで牛乳をマグカップに入れて電子レンジで数分温める。
温まって薄くはった膜を楊枝で取って、インスタント珈琲と砂糖を入れた。
一つのカップは珈琲少なめ、砂糖多め。もう一つのカップは珈琲多め、砂糖なし。
カップを持ってリビングへ行くと、テーブルの上に二つとも置いた。

「南絵、ホットカフェオレ出来てるから」

玄関でいまだマメと戯れている南絵に声を掛けると、制服の上を脱ぎながら自室へと入った。
制服から長Tにジーンズという至ってラフな格好に着替えたところで、ベッドに放ってあったケータイが音を立てた。

「はい?」

『あー、修二。オレオレ』

「連。何か用か?」

電話の相手は上杉連。星陵学園に通う修二の友人の一人だ。
学園ではほぼ一人行動をしている修二だが、学園に友人が居ないと言う訳ではない。
まぁ、学園で初めて顔を合わせた学生の友人は居ないが…。
連を含む数人の友人は皆口を揃えてこう言った。

『寝起きの修二ってつまんねぇ』

そんな訳で、彼らは滅多に学園で修二に話し掛けることはなかった。
実際のところ、恐れられている修二に近寄って、自分まで敬遠されたくないというのが本音かもしれないが。
放課後とか修二が完全に目覚めている時は凄く仲が良い。
仲が良いのかそうでないのか。いまいち判断しかねる友情であった。

『何か用か?ってつれない言葉だなぁ。連君、傷ついちゃう』

いやん。などとおちゃらけた口調で言う連に、修二は深い溜息をついた。

「用がないなら切るぞ?」

『わー!待て待て。切るにはまだ早いぞ?』

「じゃぁ、早く用件を言えよ」

『ったく、南絵ちゃんとのラブタイムを邪魔されたからって怒るなよ。…噂の転校生の事だけどさ、あの後、修二から南絵ちゃんを奪うって宣言したらしいよ。障害がある方が燃えるんだと』

「へぇ?」

『うわっ。今の『へぇ』ってめちゃめちゃ怖かったんだけど!まぁ、そんな訳だから。あ、休み時間終わっちまう。じゃぁな!』

「あぁ、サンキュ」

慌しく電話を切った連に息を吐いてケータイを閉じた。

「片瀬嵐、ね」

確認するかのように呟くと、南絵の待つリビングへと戻った。



「あ、修二君遅いよー。カフェオレ、冷めちゃったよ?」

ソファでくつろぎながらカフェオレを飲んでいた南絵は、入ってきた修二に笑顔で声をかけた。
一人用のソファを見れば、黒い毛の塊が僅かに上下していた。どうやらマメはお昼寝をしているようだ。

「着替えていたら連から電話があったんだよ」

南絵の隣に座ると、すっかり冷めてしまったカフェオレを一気に飲み干した。

「あー、連君かぁ。前置きとか世間話が長くて中々本題に入らないもんねぇ」

楽しそうに言いながら、南絵は膝立ちになると、隣に座った修二の足の間に収まった。

修二はお腹に腕を回して抱き寄せ、うなじに唇を寄せた。

「そういえば、片瀬って小学生の頃どんな感じだった?」

突然現われた嵐が気になるのか、不意に修二はそう尋ねた。
唇を肌に付けたまま喋るため、南絵はくすぐったそうに肩を竦めた。

「片瀬君?うーん、いっつも私の事苛めてたんだよー。ちょっと、苦手だったなぁ。今日だって久し振りに会ったのにあんな嫌がらせするし…」

「それって―――」

小学生の頃から南絵が好きだったんじゃないのか?

そう聞こうと思って止めた。
代わりに、朝の事を思い出したのか、ジワリと出てきた涙で滲んできた目元に唇を寄せた。



南絵には遠まわしな事は通用しない。
朝のキス事件も南絵にとっては単なる嫌がらせでしかない。

『好き』とか『愛してる』とか直球で言葉にしないと気付かないのだ。
例えばそう、今朝の「俺と付き合え」発言に対する返答のように。
普通の人ならばこれだけで、相手に告白されたと思うだろうが、南絵はそうでは無かった。

『俺は南絵が好きだ。恋人になって』

これくらいきっちりと伝えなければ駄目なのだ。

『好きだから付き合って』

この台詞だと恐らく駄目であろう。

『え?何か好きな食べ物でも食べに行きたいの?それとも好きな映画とか??』

こんな見当違いな答えが返ってきそうだ。

その事に嵐は気付いているかどうか…。
一歩間違えれば南絵を落とす作戦も単なる嫌がらせだと思われてしまうだろう。


南絵が鈍くてよかった。


そう修二が思ったとか、思わなかったとか。



「ねぇ、修二君。もっと沢山キスして?」

半分だけ身体を修二側へと捻って、下からじっと見詰める。
そんな南絵の姿に修二の顔に笑みが浮かんだ。

「あぁ、いくらでもしてあげるよ。俺のお姫様―――」

屈みこんで、そっと南絵にキスをした。

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