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よく晴れた日曜日の事。
南絵は何時ものように修二の家に来て、部屋の掃除をしていた。


「あれ??なんだろう?これ。」

引き出しの中から出てきた1枚の写真。
そこには、女の子が男の子の頬にキスをしているのが写っている。


「やぁん。懐かしい〜〜」

写真を見て南絵は思わず声を上げた。


「ん?どうした?南絵。」

その声に、キッチンから修二が顔を出す。

「修二君、見てみて♪」

修二の傍に駆け寄って、手に持っていた写真を見せた。

「あぁ…それか。懐かしいな」

フっと笑みを浮かべて、懐かしそうに目を細めた。

「……ねぇ、修二君。約束、覚えてる?」

写真を見つめていた南絵は、顔を上げてじっと修二の顔を見た。

「約束?…あぁ、ちゃんと覚えているよ。」

目を細めて南絵に笑いかけ、二人は再び写真に目を落とした。







++++++++



「うわぁ…パパ、お姉ちゃんキレイ〜〜vv」

フリルの沢山ついた可愛らしいワンピースを来た女の子が礼服を着た男性の服の裾を掴みながら歓喜の声を上げた。

ここは結婚式直前の新婦の控え室。白いドレスに身を包んだ女性が鏡の前の椅子に座っている。

「あぁ、キレイだね。…姉さん、結婚おめでとう」

「ふふ…和臣、ありがとう。南絵ちゃんも、来てくれてありがとうね?」

「うん!」

小さな女の子――――南絵は頭を撫でられて嬉しそうに笑った。

――――コンコン。

不意にドアをノックする音が聞こえ、ドアの方へと振り向く。

「悠子さん?入ってもいいかしら」

「あら、この声は沙雪さんかしら。どうぞ、入って?」

ドアを開けて姿を見せたのは、薄い黄色のドレスを着た女性だった。
そして、その後ろには男の子の姿も。

「こんにちは。式が始まる前に挨拶に来たの。先に兄さんの所に行って来たんだけど、もう待ちきれないみたいで控え室の中をウロウロしてたわ。」

「フフ。そうなの?しょうがない人ね。」

沙雪と悠子、二人は顔を見合わせて小さく笑った。

「姉さん。こちらの方は?」

「あぁ、そう言えば会った事無かったかしら。こちら、智弘さんの妹の、沙雪さん。後ろに居るのが息子の修二君よ。」

「初めまして。悠子の弟の和臣です。で、こっちが娘の南絵。ほら、南絵。ご挨拶は?」

二人が部屋に入ってきたときから南絵はずっと和臣の足にくっ付いて、隠れながら覗き見するようにしていた。

「あら。南絵ちゃんは恥ずかしいのかな?…私は沙雪よ。初めまして?」

沙雪は屈み込んで南絵と視線を合わせた。

「…こんにちわ。」

小さくそう言うと、また足の陰に隠れてしまった。
しかし、小さな目はずっと修二を捕らえているようだ。

修二も視線に気づいたのか、南絵と視線が合うとニッコリと笑顔を向けた。

「こんにちわ。僕、塚本修二っていうんだ。」

その言葉に南絵はモジモジと足の影から出てきた。

「あのね…私、谷口南絵…」

恥ずかしそうにしながら、ずっとスカートの裾を弄っている。

「南絵ちゃん?可愛い名前だね」

ニコニコとそう言われ、南絵の表情がパァっと明るくなった。

「えへ。ありがとう」

沙雪と修二が入ってきてから、南絵は初めて笑顔を向けた。


「あらあら。南絵ちゃん、人見知りが激しいのにもう打ち解けたのかしら?」

二人の様子に悠子は楽しそうな口調で言った。

「そうみたいね。…ウフフ。将来は私の娘になったりしてね?」

沙雪も楽しそうだ。

南絵の父親である和臣はと言えば、一人複雑な表情で眉間に皺を寄せた。

「さぁ、もう少しで式が始まる。南絵、姉さんより先に教会に行って待ってなきゃならないんだよ。そろそろ先に行こう?」

和臣は南絵をひょいっと抱き上げた。

「うん。…ねぇ、パパ。修ちゃんとまた会える?」

南絵の言葉に和臣は小さく苦笑した。

「あぁ、教会での式が終わったらまた会えるよ。」

「ホントに?じゃぁ、修ちゃん、またね〜」

南絵は嬉しそうな表情で修二に手を振る。

「うん、南絵ちゃんまたね」

修二もまた笑顔を浮かべて南絵に手を振り返した。


「あら…南絵ちゃんが沙雪さんの娘になるの、遠い話じゃないかもしれないわね?」

「うふふ。そうかもしれないわね。あんな可愛い子が娘になるなら、大歓迎だわ」

和臣が南絵を抱いて出て行った後、女性二人は楽しそうに顔を見合わせた。










静まり返った教会の中、パイプオルガンの幻想的な音色だけが響いている。

参列者の中央に伸びている赤い絨毯の上を父親と腕を組んだ悠子が静かに新郎の元へと歩いていく。

そんな様子を南絵はうっとりとした様子で眺めている。

子供でも女性だ。やはり、ドレスというものに憧れるのだろう。

「お姉ちゃん、御伽噺のお姫様みたい…」

ほぅっと溜息をついて、小さく声を漏らす。
憧れの眼差しでキラキラと目を輝かせた。


「パパ、何でチューするの?」

誓いのキスをした二人に、南絵は不思議そうに和臣を見上げた。

「あれは誓いのキスだよ。一生愛していく事を誓ったから、その証としてキスをするんだ。」

「へぇ〜…そうなのかぁ…」

分かっているのか、いないのか。南絵がとりあえず頷いたので、和臣は再び南絵から新郎・新婦へと視線を戻した。




「あ、修ちゃん〜〜」

結婚式の後の披露宴が始まった。
ビュッフェ形式のガーデンパーティになっている。

椅子は幾つかあるが殆ど立ちながら行われるので、南絵は1点のところに留まっておらず、あちこち動き回っていた。

「あ、南絵ちゃん」

動き回っていたのは修二を探していたためなのか、南絵は修二を見つけると嬉しそうな笑顔を見せた。

「修ちゃんみっけ♪南絵とアソボ?」

小さく首を傾げて、自分よりも若干背が高い修二を見つめる。

「うん。僕も、南絵ちゃんを探そうと思ってたところなんだ。」

「じゃぁ、あそこでお話しよ?」

「うん。」

二人は太い木の枝に吊るされている二人がけのブランコへと移動した。




二人が話し始めてから1時間程すると、すっかり仲良くなっていた。

そんな二人の様子を大人たちは微笑ましく見ていた。


「南絵も、お姉ちゃんみたいにお姫様になりたいな〜〜」

南絵はすっかり悠子の着る純白のドレスが気に入ってしまったようだ。

「でも、相手がいないとあのドレスは着れないんだよ?」

「え〜〜〜…そうなの?」

修二も意地悪で言った訳ではないのだが、泣きそうになってしまった南絵に慌ててしまう。

「じゃぁ、大きくなったら南絵ちゃんは僕のお嫁さんになる?そしたらあのドレス着れるよ」

「ホントに?」

「あ、でも好きな人同士じゃなきゃ駄目なんだって。…南絵ちゃんは僕のこと好き?」

「うん!大好き!!」

即答する南絵に修二も思わず笑みが零れた。

「僕も、南絵ちゃんが好き。」

「じゃぁ、大きくなったら南絵をお嫁さんにしてくれる?」

「うん。いいよ。」

「約束だよ?」

「うん。約束。」

「じゃぁ、誓いのチュー…」

そう言って、南絵は修二の頬にキスをした。



結婚式を撮っていたカメラマンはこの瞬間をバッチリカメラに捕らえていた。



修二と南絵、二人がまた出会うのは数年後の事。約束した相手だとはすっかり忘れていた二人が再び恋に落ちるのは、また別のお話。



++++++++





「ねぇ、修二君。あの約束は、今でも有効?」

写真から視線を修二に移して見上げる。

「南絵が俺を好きで居てくれる限り、ずっと有効だけど?」

修二は膝を曲げて南絵の腰に手を回すとそのまま抱き上げた。

「じゃぁ、ずっとずっと…だね」

そう言う南絵に笑って、鼻の頭に小さくキスをした。

南絵も修二の首に腕を回して、顔をそっと近づける。

「えへ。誓いのチュー…」

軽く修二の唇に自分のソレを重ね合わせた。

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