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星陵学園には学科、学年問わず誰でも知っているような有名な人物が何人か居る。
そのうちの一人が、塚本修二だ。

塚本修二と言う人物、生徒はもとより教師からも恐れられている。無口で無愛想で無表情、そして190cmある身長。
昔少年院に入っていたとか、一人で20人ほどの不良グループを倒したとか、刃物を持つ相手に素手で戦って無傷だったとか色々と武勇伝(?)が学校内外に飛び交っているが実際にソレを見たものは居ない。
しかし彼も噂を肯定も否定もしないため、噂が消えることはなく、軽々しく彼に声を掛ける人物は殆ど居ない。









「あ、修二君おはよ〜♪」


眠いせいだろうか?朝から不機嫌オーラを発して登校してくる修二に周囲が怖がって避けている中、果敢にも体当たりをしていく女生徒が一人。

「……」

修二は腕に抱きついてきたその女生徒の方にチラリと視線を送った後、無言のまま何事も無かったかのように校舎へと向かっていく。
女生徒を引きずるようにして。


190cmの修二と150cm強の女生徒。
傍から見ると、大人と子供。いや、誘拐犯といたいけな少女…と言ったところだろうか。


塚本修二とこの勇敢な女生徒----谷口南絵の関係は、クラスメイトで隣の席同士で同じ委員会で、更に加えて言うならこう見えても恋人同士だったりする。













「ねぇ、南絵。一体塚本君の何処が好きなの?」

とある日の放課後。修二が休みなのをいい事に、クラスメートの万理が聞いてきた。
その質問にクラス中の関心が南絵へと向けられた。
本人は全く気づいていないが。
日頃からこの事はクラス中、いや学校中の疑問だった訳だが修二が怖くて誰も聞くことが出来ていなかった。
つまり、今日が絶好のチャンスと言うわけだ。


「え〜?修二君の好きなところ??そうだなぁ…優しいところ?あと、お話が面白いところ……あぁ、笑った顔が可愛いとこ♪」

この南絵の回答にクラスがざわついたのは言うまでもない。

塚本修二が優しい?話が面白い?しかも…笑うだって?!

クラスメートの頭の中にはそれがグルグルと回っている。
それはそうだろう。南絵が答えたものは、誰もが抱いている塚本修二像とは全く正反対のものだったのだから。

「つ…塚本君が優しいって、どの辺りが…?想像つかないんだけど…」

質問した本人である万理は動揺を隠せないまま、クラス中が思っているであろうこの質問を更にしてみた。

「学校じゃ無口だもんね。修二君てね、かなりの夜行性で〜。学校が終わるくらいまで眠くて不機嫌なんだよね」

眠いってだけで、あの威圧的なオーラが出るものなのだろうか。
それを目の当たりにさせられる方は堪ったもんじゃないだろう。

「え〜っと…それはともかく、何処らへんが優しいのか、具体的に…」

「どこって…ん〜…修二君の事好きになったりしない??」

小首傾げて万理を見つめる。

「や、絶対ならないから」

即答する万理。修二の普段が普段なだけに当然だろう。

---------恋は盲目。

このフレーズがクラスメートの頭の中を巡った事は言うまでもない。

「じゃぁ、話すけど……んとね、1年前位かな?雨の日に公園でずぶぬれになってる子猫を拾ってるところ見かけてね〜。今でもその子、元気に修二君の家にいるよ。修二君、一人暮らしだから当然世話は修二君がやってるわけで〜……ね?優しいっしょ?」

にっこり笑って万理を見つめる。

「え、あ、うん。優しい…ね」

かなりありがちな話だ。だが、それをしたのが塚本修二なわけで。
ありがちな話が非現実的な話になってくる。

「それ見て南絵は、塚本君を好きになったわけ?」

「ん〜ん。違うよ。それよりも、もっと前」

「ってことは、この高校入る以前の事よね……。中学、一緒だったの?」

「それも違うよ。私と修二君はね、親戚なのだ!」

何故か得意そうに言う南絵。一瞬言葉を失ったクラスメート。

『えぇっ!親戚〜〜〜〜?!』

クラスメート全員の声がハモった。

「うん。そうだよ。…あれ?言って無かったっけ?私のパパのお姉さんの旦那さんの妹さんの子供なのです〜。これだけ遠かったら勿論、結婚だって出来るんだよね♪」

キャッと自分で言って自分で照れる南絵。

万理を筆頭に、クラスメートはもう何も言えなかった。

「あ、そうだ。拾った猫の写真あるんだ〜」

ゴソゴソと鞄の中から手帳を取り出して、間に挟まっている写真を見せた。

「………」

言葉を忘れたかのように、写真を凝視するクラスメート達。
教室に居た人全員が南絵の周りに集まって塊になっている。

「見て見て、ピンクのお鼻にピンクの肉球がラブリーな黒猫ちゃんで〜す!」

嬉しそうに皆に見せる南絵の台詞など全く耳に入ってない様子のクラスメート達。

皆の視線は『ピンクのお鼻にピンクの肉球がラブリーな黒猫』ではなく、それを抱き上げている人物。

「……塚本修二の笑顔………」

誰とも無く漏れた声。

そう、全員が塚本修二の笑顔に釘付けになっていたのだ。


「もういい?そろそろ帰りたいんだけど?」

その南絵の一言に全員が我に帰ったように動き出した。


『やだ、塚本君、超イイじゃん!』
『好きになっちゃいそう!あの笑顔反則だよ〜〜』


とか一部の女生徒達が盛り上がってる。

「……好きにならないって言ったのに……」

それを横目に拗ねたような口調で呟いて、教室から出て行った。













「……と言う訳なのよ。皆好きにならないって即答したくせに酷いよね?」

ココは修二の家。ベッドでは黒猫― マメ ―が気持ちよさそうに眠っている。

修二の家に来るなり、ソファーでテレビを見ながら寛いでいるところを捕まえてマシンガンのように放課後の出来事を話した。

修二が学校を休んだ理由は至極簡単。
単に寝たのが朝だったので、気づいたら夕方になっていただけの事である。

隣に座って拗ねている南絵に小さく笑って、ポンポンと自分の膝を叩いた。

促されて南絵は向かい合うような形で膝の上に座った。

「別に、どうってことないだろ?そんな事ぐらい」

「どうってことあるもん」

「俺が好きなのは、南絵なんだから、他人がどう思ってようが関係ないだろ?」

蕩けるような極上の笑みを向け、拗ねて尖らしている唇に軽く自分のそれを付ける。

「えへへ♪私も、修二君だーいすき」

さっきまで拗ねていたのはどこへやら。
すっかり機嫌を直した南絵は夕食の準備をするためにキッチンへと向かった。







後日談ではあるが、修二についての新しい噂が学園中を駆け巡った。
しかし、以前と変わらぬ本人の『近寄るなオーラ』(まぁ、ただ単に眠いだけなのだが)に数日としないうちにその噂は消えうせた。
真実は、修二と南絵このバカップルのみぞ知る。


塚本修二観戦ツアー ―「明日は修二君の応援に行くの」という南絵の言葉。彼の応援とは…?*

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