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「葵。花火見に行かねぇ?」

夏休みももう少しで終わるという時期。
龍次が一人暮らししている家に遊びに来てリビングで寛いで居ると、突然そんな事を言い出した。

「花火っていつ?」


「今夜。ちょっと離れているから今から出るぞ」

「ハァ?」

葵は思わず間抜けな声を出してしまう。

バンドのときもそうだったけど…龍ってホント唐突ねぇ…。何もその日の朝に言わなくても良いんじゃないの?私が用事があって行けなかったらどうするつもり?

たっぷり時間をおいて龍次を凝視した後、ふと気づいて葵は携帯の液晶に目をやる。

8月の下旬。幾ら夏休みだからと言って土日ならともかく、平日に花火なんてやっているのかしら。

「葵、ぼうっとしてないで早く用意しろよ。置いていくぞ?」

そう言われると、何だか焦った気分になる。
葵は慌てて用意を済ませると、龍次の車へと乗り込んだ。



何処まで行くのかしら?

ステアリングを握る龍次を横目に葵はぼんやりとそんなことを考える。

そう言えば、龍と花火なんて見るのどれくらいぶりだろう?
確か去年はバンドを立ち上げたばかりでそんな暇はなくて、一昨年は私が受験だったでしょ?その前は龍は留学してて……。
はぁ。止めた。

何年ぶりなのか遡るのも面倒になってきて、その事を考えるのを止め流れる景色へと眼を向けた。

「…龍…一体何処へ行くつもり?」

出かける前に龍次が言っていた『ちょっと離れている』が『凄く離れている』のではないかと気づいたのは、高速の料金所に付いた時。
高速を使って移動するなんて、どう考えても隣町ではないと言うことは葵でも分かった。


「あぁ―――まで」

車内を流れる音楽に、龍次の声がかき消されそうになったが、何とか行き先を聞き取る事が出来た。

「な、なんですってぇ?!三つも県が離れているじゃない!どこが『ちょっと離れている』な訳?」

「まぁ、そう言うなって。初めから行き先告げてたら葵が行かなかったかも知れないだろ」

「まぁ、それはそうかもしれないけど…そんな遠くまで行ったら帰り運転するの大変なんじゃない?そんな遠くまで日帰りなんて強行スケジュール、無謀だわ」

「んー、まぁな」

何となく歯切れの悪い言い方。だけどこの話はこれでお終いとでも言うかのように別の話題へと話を変えた龍次にそれ以上突っ込む事は出来なくて、葵は小さく溜息を付いた。




目的地に着いたらしく、龍次は車を停車させた。
あたりを見回してみても、大きな川があるわけでもなく海があるわけでもない。

普通花火と言ったら水辺でやるものじゃない?本当にここで花火があるの?


葵は、半信半疑で辺りを見渡した。小さな商店が僅かに建ち並ぶだけの通りが露店で賑っている。
祭りのようなものがあるのだけは確かだった。

「葵、始まるまでにまだ時間があるし、屋台とかでも見て来ようぜ。」

「うん。そうね」


小さい通りに人がたくさん溢れ返っている。
幾つかの屋台を物色しながら人の流れに乗って坂道を昇っていく。
坂道を登った先には神社があって、その横で花火が上がるようだった。

「凄い人ねぇ…これだと、どこかに座って見るって言うのも大変そう…」

「あぁ、それなら問題ねぇよ。お座敷席、予約してある」

にっと笑みを浮かべて取り出したチケットをピラピラと振って見せる。


……予約していたなら余計、前もって知らせるべきなんじゃないの?ほんっと、楽天的なんだから…


一畳ほどのスペースに二人腰を下ろし、屋台で買ってきた物を食べながら、他愛もない話をする。

暫くすると花火が始まるらしく会場のアナウンスが流れてきた。
アナウンスが終わると花火が上がり、少しの間の後再びアナウンス。
どうやらこの花火は夏場によく行われる花火大会とはちょっと違うようだった。
葵の家から近い場所でやってる花火大会は次から次へと花火が上がるのだが、ここの花火は花火の一つ一つにアナウンスが入る。
龍次にそれを聞いてみたところ、神社に奉納する花火だという返答が返ってきた。


神社に奉納?そんなのもあるのねぇ。初めて知ったわ。


そんな事を葵が思っている間にもまたアナウンスが流れた。

 『――――――おじいちゃん、米寿おめでとう。これからも長生きしてね…孫一同より。 尺・尺・尺の三発でございます!』

その声が終わると同時に尺玉の花火が三発。
さっきから聞いてると健康祈願とか会社の繁栄とかそういったコメントが多い。
一般の人もお金さえあればココで花火を打ち上げることが出来るようだ。



アナウンスによると、次は特大スターマインが上がるという。
葵はずっと上を向いていて痛くなった首を揉みながら、夜空を見上げる。
一発目の花火が上がった…と直ぐに間を置かずに次々と花火が打ち上げられていく。
何十発ものしだれ柳が打ち上げられて夜空が明るくなる。


…一体何発の花火が上がったんだろう?今まで見たスターマインの中で一番派手に上がったんじゃないかしら。『特大』って名は伊達じゃないって事みたいね。

夜空に咲く大輪の花を見上げながら、隣に居る龍次の肩に頭を乗せた。






急に花火を見に行くと言われたときはびっくりしたけど、今日来てよかったな。


帰路に向かって走り出した車の中、目に焼きついている花火の余韻に浸りながら葵はそう思った。

「龍、今日は楽しかった!連れてきてくれてありがとう」

にっこりと笑いながらそう言うと、信号待ちのために止まった暗闇の車内の中で龍次の唇がそっと重なった。






「…い。葵…着いたぞ。起きろよ」

「ん…龍?」


いつの間にか眠ってしまったらしく、龍次に肩を揺すられて目が覚めた。
家に着いたのね…そう思いながら車を降りると、目の前には見慣れない建物があった。
葵はそれを見て思わず絶句してしまった。

「ちょ…龍…家に帰るんじゃ、無かったの?」

「誰も、日帰りだなんて言ってないだろううが」

葵の驚く顔を見てしてやったりという表情をする。
悪戯が成功した時の子供のような表情。
それを見遣って、葵の肩から力が抜けた。

「龍、泊まるなら泊まるって言ってよ…着替えとか何も持ってきてないわよ?」

「あぁ、それは全く問題ない。昨日家まで迎えに行った時におばさんに話したらニコニコしながら着替えとか渡してくれたから」

ほら。と言いながらトランクから取り出されたのは間違いなく葵のバッグ。


なんて用意が良いの…ってか、何でもっと早く泊まるって言わないのよっ。


今日何度目になるのか、同じ言葉を思い浮かべて溜息を付く。

「ほら、さっさと旅館の中入ろうぜ?」

子供みたいな表情で、葵の荷物を持って歩き出した龍次を見て小さく笑みを漏らす。


まぁ、たまにはこういうのもアリかな。


そんな事を思いながら、龍次と共に旅館へと入っていった。





「へぇ…結構、広いのね……」

旅館の仲居に案内された部屋へと足を踏み入れ、そんな感想を漏らす。
荷物を部屋の隅へと置き、既に敷かれている布団を横目に、端へと追いやられているテーブルの前へ腰を下ろした。

「…それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さい…」

そう言って出て行こうとする仲居に龍次は小さな包みを渡し微笑を向ける。
仲居は顔を赤らめてポーっとした表情で暫く龍次を見つめていたが、我に返ったのか貰った包みを帯の下にしまうと一礼して部屋から出て行った。

「…どうした?葵。」

「…別に?相変わらず愛想がいいのね、と思っただけ」

「…それは、ヤキモチやいているのか?」

ニヤニヤとした笑みを浮かべる龍次に、顔を真っ赤に染める。

「バカッ…そんなんじゃないわよっ」

顔を真っ赤にして反論する様子はそうだと肯定しているのと同じである。
そんな葵の言動に楽しそうにしている龍次には葵の気持ちが分かっているだとうということは一目瞭然。
恥ずかしさを紛らわそうとしているのか葵は立ち上がって部屋の中を観察し始めた。

「ん?あの扉、何かしら…?」

特に変わった様子もないごく普通の和室なのだが、外に繋がっているであろう扉に葵は興味を示した。

「凄い…露天風呂じゃない…」

扉を開けた先には、内風呂として露天風呂があった。
部屋一つ一つに露天風呂があるのが自慢だと仲居が言っていた事が思い出される。

「これなら、大浴場に行く必要ないわねぇ…」

「そういうことだ。これなら、誰かに見られる心配はないだろう?」

「ひゃぁっ」

突然耳元で囁かれ、大げさなまでに葵は飛び跳ねた。

「龍!気配もなく後ろに立たないでよぉ」

今だバクバクと激しく鼓動を繰り返す心臓を撫で、後ろにいた龍次へと振り返る。

「そ、それに…見られる心配って何の…んっ…」

振り向いた途端に唇を塞がれて、抗議の言葉を発せないまま葵は喉を鳴らした。
最初はただ唇と唇を合わせているだけのキス。だんだんとそれは深さをまして行く。
気づけば葵は龍次に縋るような、もっとキスを強請っているような形になっていた。
口内を激しく犯されて、うまく頭が廻らずぼーっとしてしまう。
その頭を覚醒させたのは葵の背中を優しく撫でる龍次の掌で。葵はピクンと体を揺らすと龍次を見つめた。

「ぁ…龍…」

欲情に濡れた瞳で龍次を見つめる。そんな葵にフっと笑みを漏らす。

「葵、そんな眼で見つめるな。押さえが利かなくなるだろ?」

おまけとばかりにチュっとキスを落とすと、葵の身体を解放した。

「もぉっ!誰の所為だと思っているの?」

「まぁ、俺の所為だけどな。…葵、風呂にでも入るか?」

「えっ?…あぁ、うん。入る。」

僅かに頬を染めて、葵はコクっと頷いた。

そんな葵にクシャリと頭を一撫ですると、龍次は脱衣所から出て行った。
一緒に入るのだとばかり思っていた葵は、何だか拍子抜けしたような表情になりながらも、服を脱いで浴場へと入っていった。


身体を洗っていると突然背後から声を掛けられた。

「葵、背中洗ってやるよ。」

何時の間に来たのだろうか。
一人で入るのだとばかり思っていた葵は、驚いた表情をする。

「龍、いつの間に?!…い、いい。自分で洗えるし」

顔を赤くして龍次の提案を断る。

「いいって。遠慮するな」

ふっと笑みを浮かべると、葵からタオルを奪い抵抗する葵の背中を強引に洗い出した。

「っ…龍…!」

諦めて大人しく洗われていた葵がビクっと身体を揺らす。
龍次の手にはいつのまにかタオルはなくなっていて、葵を愛撫するような動きに変わっていたのだ。

「ぁっ…んぅ…」

泡で手を滑らすように身体を撫でていた龍次が不意に胸の突起に触る。
触っているうちにだんだんと硬くとがっていくそれを、キュっと軽くつまみあげる。

「あっん…」

そのたびに反応を示す葵の様子に笑みを漏らすと、背中をすっかりこちらに預けている葵の首をこちらに向かせ唇を合わせた。

「ふっ…んぅ…」

手の中で突起を弄びながら、だんだんとキスを深めていく。息苦しさに開いた唇から舌を差込み、葵のそれを絡めとり口内を蹂躙していく。
唇を離すと、はぁ、と息を吐き出した。

「龍の、エロオヤジ!」

突然仕掛けられて思わず葵は悪態を付く。

「エロオヤジだぁ?」

『オヤジ』という言葉に龍次のコメカミがピクリと反応する。

「んな事言ってると、エロオヤジに相応しく、あんな事やこんな事するぞ」

「あ、あんな事やそんな事って…?」

「内緒」

ニっと笑みを浮かべる龍次に、葵の口端がヒクリと震える。

「クッ…冗談だよ」

そう言うと、再び葵の唇を塞いだ。





「葵、好きだ。」

耳たぶを甘噛みしながら低い声で囁く。

「んっ…龍…私も、好き」

胸の突起にしつこい位に愛撫する龍次の手に喘ぎながらも葵も応える。

膝の上に座らせ後ろから抱き締めるように葵の身体に愛撫をしていく。
首だけを後ろに向かせ、啄ばむようなキスを何度も繰り返し、薄く開いた唇から舌を差し込んで口内を蹂躙する。
キュっと尖った先端を摘むと唇を塞がれている葵がくぐもった声を上げた。
その声に煽られるように執拗に突起に愛撫を施す。
もう片方の手はだんだんと下へと降りていき、腰を撫でる。そして内腿へと辿り着いた。
泡にまみれた内腿の感触を楽しむかのように撫でていた手がさらに奥まった場所へと伸びていった。

「ん!…あ、龍ぅ…」

今までの愛撫で既にしっとりと潤んでいる秘所へと指を滑らせる。
直接的な刺激に葵の力が抜けたのを感じ取ると人差し指をゆっくりと中に埋め込んでいった。

「んぅ…りゅ…ぅ…」

ゆっくりと指を動かし始めると、水音が聞え始める。
頃合を見計らって、指をもう一本増やすと、無意識のうちにキュっと指を締め付けた。
中指を根元まで埋め込み、指先で擦るように葵の感じる部分を攻め立てる。

「あっ…んんっ…」

龍次から与えられる刺激に、ここが露天風呂、外だという事も忘れ甘い声を上げる。

「あっ…はぁ…龍…そこ、や…」

「嫌、じゃなくてイイの間違いだろ?」

葵の耳たぶを軽く噛みながら甘く囁く。

どれくらい龍次の指に翻弄されただろうか。霞みがかった思考では何時間も時が過ぎたように感じた。実際にはたった数分のことであったのだが。

「ああああっ…んっりゅぅ…も…」

「イっていいぜ?」

ギュっと龍次の腕を握り、内腿を振るわせる葵にそう囁くと、強く内部を擦り上げる。

「あっ、あっ…んぁ…あぁぁぁ――ッ」




「大丈夫か?」

ハァハァと肩を上下させ、快感に瞳を潤ませている葵を覗き込む。僅かに首が縦に動いたのを見やると、小さく微笑んで泡だらけになった二人の身体をシャワーで清めた。

「さぁ、葵。部屋に戻るぞ」

よろめく葵を抱き上げ、既に布団の敷かれている寝室へと向かっていった。


「龍…布団、濡れる…」

「2組あるんだから、使わないほうで寝ればいいだろ?」

そっと葵を布団へ横たえると、その上に覆い被さった。

「そういう問題じゃ…ンッ…」

口付けをされ、続きは口の中に吸い込まれる。
口付けしている間にも龍次の手は秘所へとへと伸び、中から溢れてくる蜜を絡め取る。
蜜の滑りを借りて、溝をなぞりながら敏感な突起を撫で上げる。
浴場で煽られた葵の身体はあっという間に陥落して、再び熱を帯び始めた。

「はっ…ぁ…龍、も…いいから…っ…」

散々煽られた身体に、我慢の限界だと懇願する。
そんな葵にふわりと微笑んで頷き、素早く準備をすると、葵の両膝を抱え上げた。

「葵…力抜いてろ…」

ゆっくりと、葵の中へと腰を進める。

「はぁっ…んっ」

入り込んできた熱い質量に、思わず声を上げる。
中に全てを埋め込むと、息を吐き出しギュっと身体を抱き締めた。

何度もキスを繰り返しながらとゆっくりと律動を始める。

「あっん…ぅ…あぁ…」

律動をしながらも葵の柔らかい肌に吸い付き、所有の印を幾つも散らす。
繋がっている部分から甘い痺れが全身へと走っていく。

「葵…」

欲情の色を帯び、掠れた声にドクンと心臓が高鳴る。
汗ばむ背中にしがみ付くように手を回した。

「龍…キス、して…?」

「何回だってしてやるよ」

濡れた唇に誘われるように深く重ねる。
徐々に激しくなっていく律動に、甘い声が漏れ出てくる。

「あぁっ、あっ…んっ、ふ…」

龍次は腰をグラインドさせながら、葵の感じる部分を何度も攻め立てる。
耐えられないとでも言うかのように唇を離すと、堰を切ったかのように嬌声を上げる葵の頬にキスを落とす。

「ぁっん…龍ぅ…」

「葵、気持ち良いか?」

激しく律動を繰り返しながら、耳元で囁く。

「んっ…イイ…ッ…もぉ…ッ」

「ッ…葵、俺も…」

「あっあっ…んぅっ…あぁぁぁぁぁッ」

「ック…」



「葵、愛してるよ…」

意識が遠のく葵の耳に、そんな言葉が聞えたような気がした。




葵が目を覚ますと、露天風呂の中だった。
龍次に抱きかかえられるようにして湯船に浸かっていた。

「ん…龍…?」

振り返って自分を抱き締めている龍次を見遣る。

「ごめ…重かったでしょう?目が覚めるまで放っておいて良かったのに…」

「いや、重くなんてねぇよ。葵が風邪引いても困るしな…体中がベトベトだったし」

振り向いた葵に優しく微笑んで、軽いキスをした。

そして風呂から上がった二人は、抱き合いながら一つの布団で眠った。

目覚めた時、隣で眠る龍次の顔が間近にあって葵は幸福感で胸が一杯になり静かに微笑んだのだった。


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