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透はきっちり1ヶ月でそれなりにギターが弾けるようになっていた。

早速龍ニィに透を紹介すると大喜びしてくれて。もちろん、透の事は気に入ったみたいだった。透も、一通りの事情をこの時になってようやく説明したにも関わらず、楽しそうだとやる気満々だ。


当然ながら約束の美弥とのデートは実現させてあげた。
美弥には貸しが一つ出来ちゃったけど、ヨシとしよう。


海斗―――最近はこう呼ぶようになった―――と透は今は受験生って事で、本格的に活動を開始するのは受験が終わってかららしい。


透と海斗は、私と同じ星陵学園を受験するらしい。そこの高校は龍ニィの母校でもある。星陵学園って、普通科以外にも機械科とか家政科とか、片手では数えられないくらいの学科があって、マンモス校だったりする。でも、生徒の自主性に任せるって感じで他の学校に比べて自由度が高いということもあって、募集人員は多いのに競争率も結構高かった。











「ねぇ、龍ニィ。受験勉強見て欲しいんだけど…?」

夏休みももうそろそろ入ろうかと言う頃、思い切って龍ニィに聞いてみた。
勉強という名目があれば、毎日のように龍ニィに会えるし、お母さんも文句言わないと思う。


「おぉ、いいぞ。海斗と透も勉強見て欲しいらしくてな。同じとこ受けるんだろ?お互い刺激になるし、分からないところ聞き合えば復習にもなるし。それでも分からないところは俺が教えればいいし。毎週日曜は勉強会らしいから、葵も参加しろよ」

「…うん。一緒にやる」

なんだ。海斗も透もいるのかぁ…。ホントは二人っきりが良かったんだけどな。色々とチャンスが巡ってきそうだしね。
ぁ〜…この際仕方ないかぁ…一緒に居られる時間増やしたいし。







その日から龍ニィに勉強を教えて貰う日々が始まったのだけれど。
意外と龍ニィはスパルタだった。




「んじゃ、今日はこれでお終い。来週来るまでにここからここまでの英単語、全部覚えてくる事」

「えぇ〜〜〜!!龍次さん、そりゃないよ〜。100単語近くあるじゃん!」

教科書を閉じて透が机に伏せた。

「100単語を一気に覚えようとするから大変なんだろ?一日20単語ずつ覚えりゃいいんだから」

「簡単に言ってくれるよなぁ〜〜」

はぁっと溜息をついて、透は帰る準備をしだした。

海斗は結構頭がいいみたいで、特に理数系が得意らしい。
私はと言えば、一応星陵は合格圏内だとこの前の模試で出ている。
特に苦手な教科もないし、龍ニィにいい所を見せようと頑張っているのが相乗効果をもたらしているのかもしれない。
この勉強会で一番苦労しているのは透だと思う。模試で評価はC。もう少し勉強しないと合格は難しいだろうな。

「ま、無事に受かったら上手い飯でも食わしてやるから。がんばんな」

龍ニィは透に対する飴とムチの使い分けもばっちりだった。


「じゃぁ、今日は家に帰ります」

そう言って、海斗は立ち上がった。

私は詳しい事は知らないけれど、海斗の家庭は色々と複雑らしい。
月の9割方は龍ニィの所に居るみたい。

中学生の息子がずっと家に帰らなくても何も言わないのか、それとも両親に了承済みなのか。それすらも、なんとなく聞けなかった。


「おう。明日はハンバーグらしいから、食いたかったら来いよ」

龍ニィは屈託なく笑って、ヒラヒラと手を振った。

「じゃぁ、私も帰るね」

「またな」

龍ニィが玄関まで私達三人を見送ってくれて、私は隣の家に。海斗と透はそれぞれの家へと戻っていった。




「ただいま〜〜」

玄関を開けるといい匂いがしてきた。

「あら、お帰りなさい。そろそろご飯が出来るから、手を洗ってきなさい」

キッチンに居る母親が顔だけ出してそう告げた。

「はぁ〜い」

一旦自分の部屋に荷物を置きに行ってからリビングへと向かった。

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