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「坂下先輩、好きです」


放課後の人気のない屋上。
よくある告白シーン。登場人物は私と後輩の男の子。
古風にも靴箱に呼び出しの手紙が入ってた。
最近妙にこの手の呼び出しが多い。
後1年で卒業だとか、受験勉強が大変になる前にだとか色んな要因はあるんだろうけど…。

「うん」

「えっと…だから、好きなんです」

「えぇ、それはさっきも聞いたわ。……それで?」

だんだんとしどろもどろになってくる後輩君(名前は覚えてません。ゴメンナサイ)をちょっと憐れに思う。
ため息を一つ吐いて

「ごめんなさい。私、好きな人がいるから」

そう言うと後輩君の表情は見る見る曇っていった。

「そうですか…」

それだけ言うと踵を返して屋上から校舎へと入っていった。

可哀想だけど、仕方ない。私が欲しいのはただ一つ。
龍ニィの心なんだから。





「厳しいね、葵ちゃん」

ドアノブに手を掛けたところで不意に頭上から声が降ってきた。
見上げるとそこには人懐っこい笑みを浮かべた男の子がドアの上の貯水タンクに背を預けるように座っていた。

「…透。デバガメなんていい度胸ね?」

腕を組んで透を見上げる。睨みを利かせてみるが、相手を見上げる構図じゃイマイチ格好がつかない。

「デバガメなんて失礼な。俺がまったりしてたところに後から屋上に来て、勝手に告白劇繰り広げてただけだろ?」

『ヨッ』って掛け声を掛けながら上から飛び降りた。

「それにしてもさ、『好きです』って言われて『それで?』は無いんじゃない?かなりキツイよ。その台詞」

言葉とは裏腹に楽しそうな口調で言う。
それもそうだろう。言われたのは自分じゃないんだから。所詮ヒトゴト。

「だってさ。『好きです』って言われたって、ただそれを伝えたいだけなのか、それとも付き合って欲しいのかちゃんと言ってくれなきゃ分からないじゃない?だから、それで?って聞いたのよ」

「普通の人は付き合って欲しいって言う意味で取るの!」

「ん〜。まぁ、そうかもしれないけど…なんか、ああいうはっきりしないのって駄目なのよね」

「まぁ、気持ちはわからんでもないけどね」


…あれ…そう言えば…。

思わずマジマジと透を見る。

顔はちょっと中性的でクリクリした猫目にツンツンと外はねの髪の毛。
身長は私よりちょっと低め。160後半ってところね…。
見た目は…まぁ、合格。

頭の中にあるデータファイルに検索をかける。

渡会透(ワタライトオル)15歳。
学年1のお祭り男。男女関係無く好かれ本人も嫌いな人物は居ない。
目立つこと・喋る事が大好き。
ちなみに言うと、私の悪友。お互い恋愛感情はなし。


ふぅん…中身も問題なし。後は…。

「おぉい。葵ちゃん?もうボケちゃったのか?」

行き成り黙った私の目の前に手をかざして上下に振っている。

「ボケてないわよ。…ねぇ、透。音楽経験は?」

「は?何?行き成り」

「イイからさっさと答える!」

「音楽経験ねぇ…保育園から小学校卒業まで母親にピアノ習わされてたけど?ピアノの前でじっとしてるのが嫌で辞めたんだよね」

「…透らしいわ」

ピアノを5年以上はやってたってことか…音感はばっちり…かな?

「…ねぇ、ギター経験は?」

「何だよ、さっきから。…ギター経験は、去年音楽でやったのが初めて。んで、それ以来触ってもいないけど?」


それを聞いてビシっと人差し指を透の前に立てた。

「1ヶ月!1ヶ月でギターをマスターして。ある程度の曲が弾ける位まで!」

「はぁ?!」

「1ヶ月でマスターしたら、美弥とのデートを実現させるわ」

美弥とは私の親友で透の片想いの相手だ。

「マジで?!ギターだろうが三味線だろうが1ヶ月でマスターしてやろうじゃん!」

透が単純で助かったわ。まぁ、本当にマスター出来たらデートは何が何でも実現させてあげよう。

「んで?肝心のギターは?」

「ぁー…ギターね…」

「何?用意してないわけ?」

「ぁーごめん。透。自分で用意してもらえる?」

……多分、長い間使うことになるだろうから。

「種類とかよく分からないんだけどさ。アコースティックギターじゃなくって、バンドとかで使ってるやつ。透の家お金もちだし?おばさんは透がおねだりすれば大抵の物は買ってくれるし?大丈夫だよねぇ?」

「ぇえ〜?お袋にねだるのか?メンドー」

「…………美弥とデート」

この言葉に即座に反応した透は

「よっしゃ!任せとけ!」

の言葉と共に屋上から去っていった。


ほんと、単純なヤツで良かった。




透には悪いけど、人身御供になってもらうわよ。
今バンドの事しか入ってない龍ニィの視界に何としても映っておかなくちゃ。

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