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 保育園の時からずっと好きな人がいる。
もう、10年近く片想いしている。隣の家に住む7歳年上の人。

 高校生の時に綺麗な彼女が出来た時も、私はまだ10歳で妹としか見てもらえなかったからどうすることも出来なかった。
 大人の女性になりたくて、中学と同時に言葉づかいも変えて綺麗になれるように努力した。
成果が実って今では私服を着ていたら中学生とは見えないし、ナンパされることもよくあるようになった。

 龍ニィは高校卒業と同時にアメリカの大学に進学してしまって、私が努力してきた四年間を知らない。


――――明日、龍ニィが日本に帰ってくる。










 龍ニィの両親に頼み込んで、今日一緒に成田へと来ている。
ゲートの前で龍ニィが出てくるのを待っているところだ。

 龍ニィとはこの四年間、一度も連絡をとっていなかった。
彼女でも家族でもないから当然の事だと思う。
 お正月も帰ってきているみたいだったけど、私の家では毎年父の実家に遊びに行くのが恒例なので家に帰ってくる頃には龍ニィはアメリカへと戻ってしまっていた。


 「…あ」

 ゲートを沢山人が通っていく中、後ろの方に一つだけ頭が出た人物が見えた。

龍ニィだ。

ドキドキする胸を落ち着かせて龍ニィをじっと見つめる。

「龍次。お帰りなさい」

美津子おばさんが龍ニィへと声を掛けた。

「ただいま。わざわざ二人で迎えに来なくったって一人で家に着けるぜ?」

そう言って龍ニィはおじさんとおばさんに笑いかけたた後、ふと私の方へと視線向けてきて、私の心臓はドキンと跳ね上がる。

「ぁ……・葵…?」

 何だか戸惑ったような声で私に話しかけて来る。何でだろうと不思議に思い少しだけ首を傾げる。

「お帰りなさい。龍ニィ」

「ぉ、おう。…大きくなったなぁ、葵」

少しぶっきらぼうにそう言って、私の頭を撫でる。

「やだ、なぁに?龍次ったら。葵ちゃんが美人さんに成長したものだから照れてるの?」

おばさんは笑って龍ニィの背中を叩いた。

「そうだぞ、龍次。こういう時は綺麗になったぐらい言うもんだぞ?」

……流石元プレイボーイ。亮おじさん言うことが普通のお父さんとは違います。

「ささ、龍次。こんな場で立ち話も何だし場所を移動しましょう?」

おばさんの言葉に、皆は駐車場へと歩きだした。





おじさんが運転する車の中、当然ながら後部座席に私と龍ニィが座っている。

 四年ぶりに会った龍ニィは凄くカッコ良くなっていて、それでいて大人の男性って感じ。
会った時からずっとドキドキしていて、何を話していいか分からなくて。
車の中でもおばさんの話にただ頷くだけだった。




「葵は今中学生だっけ?」

家に帰る途中で立ち寄った中華料理店。
丸いテーブルを4人で囲んで料理が来るのを待っているところで、龍ニィが私に声をかけてきた。

「う、うん。今中三だよ」

緊張していたせいで、子供っぽい話し方になってしまった。
折角言葉づかいを気にして大人っぽくしようと思ってたのに…。

「そっか。暫く見ないうちに変わってて、最初は葵だって分からなかった」

「…・早く大人になりたいから。龍ニィの隣に並んで歩いても恥ずかしくないように努力してるの」

気を取り直して言葉づかいを気をつけてみる。
言葉づかいを気にしすぎたせいで思わず本音を言ってしまった。

「そっか。頑張ったんだなぁ」

ニッコリ笑って龍ニィは私の頭を撫でる。

……全然本気にしてくれてないし。
鈍感なの?それとも私が範囲外だから?



「龍次。日本に戻ってきてやること決まったの?」

私が泣きそうになっているのに気づいたのか、おばさんが話を変えた。

私がおばさんの方へと顔を向けたら、優しく微笑んでくれた。


「んー…まだ、決まったって訳じゃないんだけど…メンバー集めてバイトしながらバンド活動したいんだよね」

「えっ?!龍ニィバンドやるの?」

「まぁ、まだメンバーも居ないけどな」

メンバーも居ないのにバンド活動なんて…なんて楽天的な…。龍ニィらしいといえばらしいけど…。

「そう。まぁ、自分で決めたことなんだから、ちゃんと自分で責任もちなさいね。最後の最後にならないと、私たちは手を貸しませんからね」

おばさんはニッコリ笑って厳しい言葉を龍ニィに告げた。

普通の親だったら此処で反対する場面だと思う。
厳しい言葉を告げながらも、応援してくれるおばさんが凄いと思った。

おじさんは小さな芸能プロダクションの社長さん。龍ニィがこれから歩む道が厳しいと言うことも知ってるだろう。
でも、おじさんも反対することなくおばさんの言葉にただ頷くだけだった。

「まぁ、インディーズでそれなりに人気が出たら、うちの事務所でデビューさせてやってもいいぞ?」

ニヤリと笑ってそういうおじさん。
やっぱり……さすがです。おじさん。  










「葵、今日はワザワザ来てくれて有難うな?」

家に帰ってきて、私の家の門の前まで龍ニィが見送ってくれた。
と言っても、家は隣なんだけれど。


「ううん。私が、龍ニィに会いたかっただけだから」

そう言ってニッコリと笑顔を向ける。
龍ニィが居ない四年間の中で私が手に入れた必殺技だ。

「あ、あぁ…そうか」

龍ニィはちょっと照れたように頬を掻く。少しは私の事を意識してくれるだろうか。

「あ、そうそう…龍ニィは今、彼女とか居るの?」

「いや、今は居ないな」

「じゃぁ、私がデートに誘ってもなんの問題もないよね」

更にニッコリと笑って、反論できないようにする。

「あぁ」

ちょっと戸惑ったように頷く龍ニィ。

「じゃぁ、私が春休みの間にお誘いするね」

そう言って、私は素早く背伸びをすると、龍ニィの頬にキスをした。

「お、おい。葵…」

「じゃぁ、またね〜」

龍ニィが何か言おうとしてたけど、それを遮るようにして家の中へと逃げ込んだ。



「はぁ〜〜〜私ってば、何て大胆なこと…心臓バクバクしてるよ…」

頬にとはいえ、自分からキスをするのはかなり勇気がいった。
だけど、鈍感な龍ニィにはこのくらい積極的じゃないと駄目な気がした。

「頑張れ、私」

ギュっと拳を握り締めて自分に激励を送る。
私の戦いは始まったばかりだ。

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