【8】ユグドラシル* BACK | INDEX | NEXT |
まだ夜も明けていない早朝。 ヴラドの空間移動によって二人は世界樹が見える地点まで来ていた。 「ヴラドさん。空間移動する時、手を繋ぐだけでも良いんですねぇ」 「は?何だいきなり」 「だって、今までずっと抱き締められていたのでそのくらいに密着していないと駄目なのかと思っていましたよ?」 「別に、離れなければ手を繋ぐのだって問題ない」 「じゃぁ何でですか?」 「俺の趣味だ」 「はぁ」 「んなことは良いからさっさと行くぞ」 ヴラドはリンネの手を取ると世界樹へと向かって歩き始めた。 ミリアの術のせいでリンネを抱き締める以上のことをする事が出来なくなってしまったが、手を繋ぐ事は問題はないようで、ヴラドは片時も離さずリンネの手を握っていた。 「そう言えばヴラドさん。どうして世界樹の直ぐ傍まで空間移動で行かないのですか?」 大分歩いて世界樹の姿が大きくなり始めた頃、ふとそんな疑問を口にしてみた。 「世界樹の傍はどんな魔術も一切使えないからな。世界樹から発している気が辺りを守り、魔を寄せ付けない。その気は癒しの効果もあると言われているな」 「へぇ…そうなんですか…聖なる木なんですねぇ…」 リンネは感心したように頷くと、先にある世界樹を見つめた。 世界樹を中心に村があり、その入口へと差し掛かった時、ヴラドは足を止めた。 「どうしたんですか?ヴラドさん」 「いや、ちょっと気合を入れてだな」 「気合?」 不思議そうにするリンネを余所に、瞳を閉じてぐっと拳に力を込める。 少しの間そうした後、ゆっくりと瞳を開けた。 「行くぞ」 「あ、はい」 僅かに早足になったヴラドを小走りで追いかける。 村の通りを抜け、世界樹が目の前に見え始めた頃、リンネはヴラドの異変に気付いた。 額にうっすらと汗をかき、心なしか呼吸も荒くなっているように見える。 村の入口までは普通だったのに数分の間にヴラドに何があったのか。 リンネは心配になって口を開いた。 「ヴラドさん、何か辛そうですけど…どうしたんですか?」 「さっき…世界樹の話をしただろ」 ヴラドは口を開くのも辛そうだ。 「あ、はい…えっと、魔を寄せ付けなくて、癒しの効果があるって…」 「そうだ…で、俺は何だ?」 「えーっと…魔族、ですよね…あっ」 ようやくリンネも気付いたのか、驚いて口を塞いだ。 「そう言う事。こんな場一秒だって長く居たくねぇ。さっさと雫取って帰るぞ」 「あっ、ハイッ」 世界樹は魔を寄せ付けない。それは魔族であるヴラドも例外ではなかった。 下等な魔物であったら世界樹の気の漂う範囲内には一歩たりとも入る事は出来ないだろう。 万が一入れたとしても一瞬にしてその姿は消滅してしまう。 実力のあるヴラドだからこそ、世界樹の力に耐えられているのだ。 ようやく世界樹の下まで到着した頃、ヴラドからはかなりの脂汗が出ており辛そうな状況だという事は端から見ても分かる位だ。 ただその顔は辛そうな表情など見せては居ないが。 「ヴラドさん、辛いのなら私はこのままでも良いのですよ?」 そんな様子を見かねたリンネはヴラドの腕をそっと引いた。 「馬鹿か。俺が止めるわけねぇだろ。俺がお前を抱けるかどうかが掛っているんだからな」 物凄い勢いに気圧されながらもリンネは僅かに苦笑を漏らす。 「それとも何か?お前は俺に触られなくてホッとしてるとか?」 「えっ…えっと、そんな事はないですよ?」 「…何だ、今の間は…」 「……良く分からないので…」 「術を解いたらじっくり分からせてやる」 そう言った後、世界樹を見上げて葉の一つに手を伸ばした。 その刹那、ビリビリと指先から電気が全身を駆け巡った。 「触るのも一苦労ってか…ったく、ろくでもねぇ事考えるよな。アノ女…」 チっと舌打ちをしながら悪態をつく。 アノ女とは当然ながらミリアの事だ。 何とか朝露の付いた世界樹の葉をもぎ取ると、ソレを口に含んだ。 傍で見守っていたリンネに近づくと、そのまま口を塞いだ。 額を走る痛みにリンネは顔を顰めるが、そんな事はお構いなしに朝露を飲ませる。 ついでとばかりに口内を思う存分蹂躙する。 最初は額に痛みが走っていたリンネだが、ヴラドの唇が離れる頃には触られてもキスされても痛みが走る事は無かった。 「…どうやら、術解けたみたいですね…」 「あぁ…これで思う存分、お前に触れ…る…」 「ヴラドさん!!」 ついにヴラドに限界が来たのか、地面に倒れこんでしまった。 「ど、どうしましょう…とりあえず、ここから運び出さなくては…」 ヴラドの下に身体を入れて、持ち上げようとするがビクともしない。 二人の体格差を見ればそれは当然の事だろう。 どうしたらいいものかと困っていると、頭上から声が降ってきた。 「あらあら。ヴラドったら倒れちゃったわけ?だらしないわねぇ」 艶やかな色気を含んだその声の持ち主は… 「ミリアさん!」 この騒動を起こした張本人であるミリアだった。 「でもま、此処まで辿り着けないと思っていたのに根性で術解いちゃったし?リンネちゃんへの愛を見せ付けられちゃったから助けてあげますか…はい。リンネちゃん。私の手に掴まって?」 「あ、はい」 差し出された手を反射的に掴み、ミリアとヴラドの間に視線を彷徨わせた。 ミリアはヴラドの腕を掴むと、一瞬にしてその場から姿を消した。 「ミリアさん、世界樹の傍では術は使えないんじゃなかったんですか?」 ミリアの空間移動にて宿の部屋まで戻ってきたリンネは、ベッドに寝かせたヴラドの額に濡らした布を置いた。 「あそこで術が使えないのは魔物だけよ。私には世界樹の影響は何にも無いわ」 「あ、そうだったんですか…」 「じゃぁ私は帰るわね。面白いものも見れたし」 「あ、はい。助けていただいて有難うございました」 リンネが頭を下げるとミリアは思わず笑みを零した。 「馬鹿ねぇ。ヴラドが倒れたのも元はといえば私の所為なのよ?」 「そう言われてみれば、そう、ですね」 「うふふ。そこがリンネちゃんの可愛いところなんだけどね?…ねぇ、今日のヴラド見てどう思った?」 「え?どうって?」 「もぉ。リンネちゃんたら鈍感さんなんだから…一度じっくり自分の気持ちと向き合ってみると良いわよ。答えなんて簡単に見つかるんだから…じゃぁ、またいつか会えるのを楽しみにしてるわ」 ミリアはリンネに投げキッスをすると、リンネの言葉を聞かずに消え去ってしまった。 一人残されたリンネは、ヴラドとは反対側のベッドに座り込んだ。 「自分の気持ち、ですか…」 ふぅ…と溜息を付いた時、ヴラドが身じろぎしたのが目に入った。 ベッドから立ち上がり、ヴラドへと近寄ると、上から顔を覗き込んだ。 「ヴラドさん?目、覚めましたか?…ッキャァ」 声を掛けた途端に腕を引張られ、気づけばヴラドの胸の中に身体が収まっていた。 「ヴ、ヴラドさん?」 「頭痛くねぇか?」 「あ、はい。何とも無いですよ…んっ」 胸から顔を上げて答えると、そのまま唇を塞がれた。 薄く開いた唇から進入してきた舌にリンネのソレが絡め取られる。 我が物顔で口内を蹂躙され、リンネは苦しくなってヴラドの肩を叩いた。 「っ…はぁ…ヴラドさん、行き成り何するんですか」 「あ?折角リンネに触れるようになったんだ。俺が喰わねぇ訳がねぇだろ?」 「あの、でも身体の方は…」 「大したことねぇよ。もう二日近くリンネに触れてねぇんだ。食わせろ」 素早くリンネを自分の下に組み敷くと、開きかけた唇を再び深く塞いだ。 シャツのボタンを外し、滑らかな肌へと手を這わす。 胸の先端を指の腹で擦ると、ピクンとリンネの肩が揺れた。 「ぁ…んっ…ヴラドさ…」 唇を離し、頬、首を通って紅い痕を白い肌に散らしながら下へと降りていく。 胸の膨らみの境界線を舌でなぞり、胸の先端を口に含んだ。 「あぁっ…ん…」 「もっと可愛い声聞かせろよ」 軽く甘噛みし、ねっとりと舌で嬲る。 その間にも右手は脇腹を撫でながら下へと降り、内腿へと到着した。 閉じないように足の間に身体を割り込ませると、下着の上から秘所を撫で上げた。 「あんっ…はぁっ…」 既にそこは熱くなっており、クチュリと淫らな水音が響く。 下着を脱がせると、濡れた中心に指を二本差し入れた。 内壁を指の腹で擦るようにゆっくりと抜き差しを始めると、水音が段々と大きくなり、ヴラドの手を伝ってポタリと雫がシーツに垂れた。 「口では何だ言っても、こっちは準備万端って感じだな?」 ニヤリと笑みを浮かべるヴラドの台詞に、リンネの頬は羞恥心で紅潮する。 「も、ヴラドさんっ…意地悪な事…あぅっ…」 何の前触れもなしにヴラドが中に入り込んで来て、思わずリンネは背を仰け反らせた。 「はっ…リンネん中、やっぱ最高」 唇を舐めながら見下ろしてくる表情に思わずリンネはドキリとしてしまう。 私は、どうしてヴラドさんに抱かれているんだろう? ヴラドさんが強引だから…ただ、それだけ? 「何考え事してんだ。こっちに集中しろよ」 「え?…あっ…はぁんっ…」 グイっと奥まで入り込んできた質量に、考えていた事など直ぐに頭から吹っ飛んでしまう。 激しく突き上げあげられ、リンネの口からはただ甘い声だけが漏れる。 そんな様子に満足するかのように笑みを浮かべ、更に激しく律動を繰り返す。 「ぁあっ…ヴラドさ…っぅぅ…」 両足を抱え上げ、更に奥へと侵入してくるヴラドに、リンネは一際大きく嬌声をあげる。 クチュクチュと卑猥な水音が室内に響き渡る。 「あぁんっ…ヴラドさん、もぉっ…」 「あぁ、イケよ」 一番深いところに熱い猛りを感じ、リンネの頭は真っ白になり、無意識のうちに中のヴラドを締め上げる。 その瞬間、リンネの最奥でヴラドもまた、熱い欲望を吐き出した。 一刻の間気を失っていたリンネは、目が覚めると後ろからヴラドに抱き締められていた。 二人とも裸のままで、恥ずかしがるリンネを無理やりねじ伏せ今でもその状態のままだ。 「そういや、額の痣、消えねぇな」 後ろから覗き込むようにしてリンネの顔を見たヴラドはそう呟いた。 「え、そうなんですか?」 「あぁ。腫れて赤くなっていたのは治った見たいだが、痣はそのままだな…ったくアノ女。勝手に俺のリンネに痣なんてつけやがって」 そんなヴラドの言葉を聞きながら、そっと額の痣をなぞってみる。 傷になっているわけではない。指に伝わる感触は至って滑らかなものだった。 ―――一度じっくり自分の気持ちと向き合ってみると良いわよ。答えなんて簡単に見つかるんだから その言葉を思い出してゆっくりと瞳を閉じた。 リンネとヴラド。出会ってから一年以上経ち、身体の関係があるというのに…気持ちの上ではヴラドからの一方通行な関係だったりする。 |