【6】女神の聖冠* BACK | INDEX | NEXT
グラン家を出てから1年の時が経とうとしていた。
あれから二人は国内の村や街を転々として旅を続けていた。
あてなどはないが、どこに行ってもグラン家からの追っ手と出くわし一戦を交えていたため定住するのは諦めているようだ。
ヴラドにとっては、追っ手を追い払うのは赤子の手をひねるようなものであったが、リンネは出来るだけ人を傷つけたくはなかった。
それに、ヴラドはリンネさえ居れば何処に住もうが旅をしようが関係がなかったし、リンネも広い世界を知るのが楽しいようだった。

二人は偽名でギルドに登録し、生計を立てていた。

ギルドの仕事にはランク分けがしてあり、上からS、A〜Eとなっていた。
ランクは大抵報酬金で決まっており、ランクが高い仕事ほど、報酬が貰え、危険もそれなりに付きまとうようなものだった。

ギルドに登録した当初はEランクの仕事しかさせてもらえず、成功率と実力と登録年数により段々と上のレベルの仕事をさせてもらえるのだ。
ヴラドとリンネは今、Aランクまでの仕事を選ぶ事が出来た。
1年でAランクというのはかなりの速さでのランクアップと言える。

ギルドは身分も関係なく登録できる上、世界中の街に仕事斡旋場があるために冒険者などには人気だった。




「えっと、ヴラドさん次の仕事ですが…」

酒場の隅で遅い昼食を取りながら、リンネは仕事のリストを眺めていた。

「一つは隣の村まで荷物を届けるもの。一つは隣の街まで人を送り届ける、いわゆる用心棒ですね。一つは、女神の聖冠について調べてくるもの。とりあえず、この三つがあるみたいですね」

「ふ、ん…最後の、女神の聖冠ってなんだよ」

ヴラドは熱いお茶の入ったカップを口に運びながら目線だけをリンネに向けた。

「えっと…手に入れた者の願いを叶えてくれるものらしいですね。この仕事の内容は、女神の聖冠のある場所まで行って、本当に願いを叶えてくれる代物なのかを調査してくる事のようです。もし持ち帰ってこれるようなら持ち帰って来なければならないようですね。女神の聖冠の場所は分っているようですが、魔物の多く出るサラージュの森の奥深くの洞窟の奥にあり、今まで調査しに行った者は誰一人戻ってきて居ないようです。報酬は5000ルピ。Aランクの最高ランクに位置する報酬ですが、危険度はSクラスと言っても良い位みたいですね」

リストの紙をテーブルに置くと、焼きたてのパンにバターを塗り一口食べる。
酒場と言っても昼は普通に食堂を開いている為ご飯は中々美味しいものであった。

「ふぅん…その仕事、成功させたら暫くは仕事しなくて済みそうだな。それに、流石にサラージュまでグランの奴ら、追って来ねぇだろ?それにするか?」

「まぁ、そうですね…他の二つだと別の村や街に行かなければなりませんし、その間にグランの人たちに会ったら面倒ですものね…じゃあ、女神の聖冠の仕事にしましょうか。仕事、受けてきますね」

そう言ってリストを持って立ち上がると、カウンターに立っている店主の元へと歩いて行った。
この酒場はギルドと通じていて、ギルド証を見せれば仕事を提供してくれるのだ。

「ヴラドさん、明日出発しましょう。今日は明日の準備をして早いうちに宿に戻りましょうか」

「あぁ、特に用もないしな。じゃぁ、行くか」

「はい」

勘定を払うと、酒場を後にして市場へと出かけた。
携帯食料と薬草等、長期になるであろう仕事に備えて大荷物にはならない程度に必要な物だけを買って市場を後にした。



「女神の聖冠…どんなのでしょうねぇ…」

リンネはベッドに座り込んで、独り言のように言った。
リンネとヴラドは一つの部屋で寝泊りしている。
経費削減もあるが、ヴラドが別々の部屋にする事を譲らなかったのだ。
リンネはベッドが一つだけというのは恥ずかしいらしく、二つベッドがある部屋ならと同じ部屋に泊まることを承諾していた。

「さぁな…一目見てコレだって分るもんじゃなかったらどうする?」

「えーっと…その時はその時に考えるって事で…いいんじゃないでしょうか?」

「まぁな。別に、持って帰って来なくても良いわけだしな」

「そうですね…って、ヴラドさんっ!」

気付けばベッドに押し倒されていた。
驚いたように見詰めるリンネに不敵な笑みを浮かべて顔を寄せた。

「んっ…ヴラドさん…明日から、旅に出なきゃならないんですよ?」

すっかりその気になっているヴラドの身体をやんわりと押し返した。
が、びくともせず、頬に、首筋にキスを落としていく。

「ばぁか。明日から野宿だから今のうちにお前を堪能するんだろ?外でもイイっつーんなら今日は諦めてやってもいいけど?」

「えっ、あっ…外は…」

「嫌だろ?俺は別に構わねぇけどなぁ…大人しく、喰われとけ」

悪びれもせずそう言って、行為に没頭しだした。





「んっ…あぁっ…」

熱い猛りが幾度となく往復し、その度に甘い声を漏らす。
最初は抵抗していたものの、攻められ簡単に陥落してしまったリンネは、今ではヴラドのなすがままだ。

「リンネ、ここ好きだろ?」

グっと中の感じる場所を強く擦られ、ビクリと足が震える。

「ぁっ…そんな、こと…ふ…」

「しらばっくれても無駄。何てったってお前の身体を開発したのは俺なんだからな」

豊かな胸へ愛撫をしながらニヤリと笑みを浮かべる。
リンネは恥ずかしくなって、首に抱きつくと肩口へと顔を埋める。

「ヴラドさ…恥ずかしい事、言わないで下さい…はんっ…あ…」

「何時まで経っても慣れねぇな…ま、そこが可愛いんだけどな」

そう言いながら激しく突き上げ、リンネを高みへと追いやっていく。

「は…あぁ…も、イ…あぁっ…」

「イけよ…」

耳元で囁き、叩き付けるように最奥を貫く。

「あっ…あぁっ…!!!」

その瞬間、リンネの身体に電気が走ったように快感の痺れが全身を駆け抜け、無意識に中のヴラドを締め付けた。
ヴラドもまた、それに誘われるかのように熱いものをリンネの中に吐き出した。










「それにしても、暗いですねぇ…」

洞窟の前まではヴラドの空間移動で来れたが、洞窟にはなにやら結界が張り巡らされており、歩いてでないと中に入れないようになっていた。
「面倒くせぇ」とヴラドはぼやいたが、仕事なだけに仕方のない事だ。
結局のところ、ヴラドの空間移動があるために何日も野宿なんてすることはなかったのだが、昨日のリンネはすっかり頭から抜け落ちていて、ヴラドの罠にまんまと引っかかったのだった。

「まぁ、洞窟の中だしな。唯一の光は魔術で作った光の玉だけか…何が出てくるか分からないから、気をつけろよ?」

「はい。ヴラドさん…キャァッ!」

「どうした?!リンネ!」

「あ、すみません…ちょっと張り出した根につまづいただけです…」

「ったく言った傍から…あんまり心配掛けるな…チッ!リンネ、気をつけろ?何か居るぞ」

そう言って、リンネを背中に隠すように立ち前方を見据えた。

暗闇の中から現われたのは、無数のゴブリンの群れ。
ゴブリンの知能は低く、そして食欲旺盛。
目の前に餌が現われたら、容赦なく襲ってくるのだ。

『ゥガーーー!!!』

ゴブリンの雄叫びが洞窟内に響き渡り、一斉に襲い掛かってきた。

「リンネ、ゴブリンに有効なのは?」

余裕の表情で背後のリンネに声を掛ける。
その間にも掌には魔力が集中していく。

「えっと、火、でしたね」

「正解!」

そう言うと同時にヴラドの手から炎が放たれた。
前方に居たゴブリンは断末魔の叫びをあげ、灰になった。
居なくなった仲間には目もくれず、後方に居たゴブリンが更に襲ってくる。

「リンネ、お前もやってみろよ」

「は、はい!」

リンネも素早く掌に集中すると、魔術をゴブリンに向かって解き放った。

「……リンネ……」

解き放たれた魔術を見てヴラドは呆れたような声をだした。

「あ、あれ…」

リンネから放たれたのは炎ではなく、風の刃だった。
リンネの魔術はヴラドに1年間指導してもらった割には相変わらずのようだ。
ただ、威力は格段に上がっており、ゴブリンの群れは残り全て風の刃によって切り裂かれた。

「相変わらず、思うように魔術が使えねぇな…ま、結果オーライだからいいけどな」

ゴブリンの死体を乗り越えて、更に洞窟の奥へと進んで行く。
途中、魔物と何回か遭遇し、更に洞窟に仕掛けられた罠をかいくぐり、とうとう洞窟の最奥まで到着した。

「あ、あそこにある冠、もしかして女神の聖冠ですかね?」

「ぁー、そうなんじゃねぇか?」

薄暗い部屋に、金色の光を放つ冠がその存在を示していた。

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