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グラン家。

この国では知らない者は居ないと言っても過言でないくらいに有名な一族。

その血筋は魔導士を多く生み出し、その歴史に数々の名を残している。
中には王宮筆頭魔導士を勤めるほどの実力の持ち主も居た。

魔導士として名実共に世の中から認められている一族である。

グラン家に生まれたからには、将来は魔導に進む意外に道はない。他に進みたければ一族の名を捨てる事をしなlineageければならないのだ。
小さい頃から魔導書を読み、魔術を習い英才教育を受ける。
全ては一流の魔導士になるために。






「リンネ、お前は明日見合いをするのだ。分ったね?」

「…はい、お父様…」


ここはグラン家本家のリビング。
一族の長であるライズとその娘のリンネが向かい合って座っている。


「お前は一族の落ちこぼれだ。だが、魔力だけは人一倍良いものを持っている。我が一族の為に良い魔導士を生むのがお前の役目だ。これはお願いではなく長である私からの命令だ。」

「はい…」

ライズはそう言うと他に用は無いとばかりにヒラリと手を振ってリンネを外に出るように促した。
それに従いリンネはリビングを出て行った。



リンネ・グラン。
グラン家本家の次女。上に二人の優秀な兄と姉、下にはまたもや優秀な妹が居る。
彼女は一族の中で落ちこぼれと言われ身の狭い思いをしている。
不器用で、上手く魔術をコントロール出来ないのだ。
炎を出そうとして水を出してしまったり、はたまた大爆発を引き起こしてしまったり。
何かを召喚しようとすれば上手く発動せず何も召喚する事が出来ない。
一メートル先に空間移動しようとして家の屋根の上に移動してしまった事もある。
リンネの魔術は非情に不安定で思い通りに行った試しがなかった。
一人前に魔導士になるには思い通りに魔術を繰り出すのが基本中の基本だ。
初歩である炎も水も、容易く出せない事には話しにならなかった。

リンネが他の者より秀でている者と言えば、魔力の大きさとその色であった。

魔力には色がついており、それぞれの色に合わせて得意分野、不得意分野が生まれながらに身に付いている。

火の属性の赤。水の属性の青。風の属性の緑、土属性の黄、光属性の金、闇属性の黒。
魔力の強弱、種族に関係なく全ての生きるものは生まれながらにそれぞれの色を持っている。
そしてもう一つ、白という色がある。
この色を持って生まれる者は極稀で、世界中の生物を探しても見つけることは難しい。

白は他の色に染まり、そして他の色を染める。
他の色は白に憧れを抱き、そして嫌悪感を抱く。
白の色を持つものは全てのものに属性と相性が良く、全ての属性を苦手とする。

白い魔力を持った者は小さい頃に自分の得意分野を見つけ他の色へと変化する。
他の色と違い、選択肢を持って生まれてくるのだ。
中には全ての属性の魔術を得意とし、時と場合によって変化する器用な者も居た。

そして、今までの歴史を紐解けば、白い魔力で生まれた者は、何らかの形で名前を残していた。
王の名であったり、魔術士の名であったり、画家の名であったりと様々ではあるが、それぞれに共通している事は、全ての生きるものに好かれたという事。そしてそれと同時に全ての生きるものに憎まれたという事。

他を惹きつけるがゆえに、他に嫉妬心を抱かせる。

白の魔力と言うのはそう言う存在である。


そしてリンネもまた、その一人であった。

人は彼女の白い魔力と容姿に惹かれ、それ以上にあまりの不器用さに落胆し、疎み蔑んだ。
生まれてきた時の期待が大きかった分、それからの落胆も大きなものだったのだ。

リンネは17歳という年齢にも関わらず、魔力は未だ白いままだった。
何物にも染まる事無く真っ白なまま今まで生きてきたのだ。
もしかしたら、昔にそういう人が居たかもしれない。しかし今生きる人々の記憶の中には10歳を過ぎても尚白い魔力のままでいる者は居なかった。




「お見合い…ですか…私が一族の役に立てるのは、そのくらいしかありませんものね…」

リビングを出た後、リンネは地下室へ続く扉を開け、薄暗い階段を下へ下へと降りていた。
リンネの足元を照らすように、光の玉がフワフワと宙に浮いている。
リンネが唯一まともに使える魔術であった。

階段を降りきった先にはまた扉があり、その奥には膨大な書物が眠っている。
ここはリンネのお気に入りの場所で、色々な種類の魔導書が保管されている。
初歩的な魔術の本から、魔導士なら一度は読んで見たいとされる貴重な魔導書まである。
リンネはここにある本を半分以上読んでしまっており、その知識は一流の魔導士にもひけを取らないくらいである。
その知識を魔術へと変換できれば、リンネはかなりの術者になれるであろう。



「お見合いの相手、どんな方なのでしょうか…結婚する前に、恋と言うものを一度でいいからしてみたかったんですけどねぇ…その方に恋する事が出来るのでしょうか」

石の床に座って読んでいた書物を閉じると、溜息を付きながらポツリと呟いた。

上手く魔術を操れないリンネは人一倍努力をしてきて、その分他に気を回す事が出来なかった。
誰かに恋をする事など、そんな余裕があるはずもなかった。

そっと目を閉じてお見合いの相手の姿を想像してみるが、相手が誰なのか分からないのに思い浮かべる事など出来るはずもなかった。


「まぁ、悩んでいても仕方ないですね。明日になれば相手の方ともお会いできるのですし」

閉じた本を持って立ち上がると、ふと何かに呼ばれたような気がして振り返った。

「誰か、居ますか…?」

誰も居るはずのない室内に声を掛けてみる。
やはり誰も居ないのか返事はない。

「おかしいですねぇ…呼ばれたような気がしたのですが…」

不思議そうに首を傾げると、また何かに呼ばれた気がした。
声が聞こえる訳では無いのだが、確かにリンネは呼ばれているのだと直感した。
呼ばれている気がする方へと向かって歩いて行くと、部屋の壁へと突き当たった。

「突き当たり、ですね。確かに、この辺りから呼ばれた気がしたのですけど…」

辺りをキョロキョロと見渡すと、棚にある一冊の書物に目が止まった。

「あれ?こんな本、以前からあったでしょうか」

毎日のようにこの書庫へと出入りしていて、読んだ事は無くても全ての書籍を把握している筈なのに見覚えの無いものだった。
蔦のような模様が入っている赤い書籍は分厚く、取り出してみるとかなりの質量があった。
表紙にはタイトルも書いてなく、何の本か検討もつかない。

試しに一ページ捲って見るとそこには

『この本はグラン家に伝わる魔導書である。何人たりとも持ち出すことを禁ずる』

と書いてあった。

「門外不出の魔導書ですか。何が書いてあるのでしょうか」

更にもう一ページ捲ってみると何やら文字が書いてあるが、古代の文字なのか、特殊な文字なのか。リンネには読む事が出来なかった。

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