【1】 BACK | INDEX | NEXT |
多分、ここがこの街で一番空に近い場所。 最初はこんな高くて、人が一人、座れるか座れないかのスペースしかないこの場所が怖くてしかたなかった。 でも、浮遊術を完璧にマスターした今では、一番のお気に入りの場所。 綺麗な空が近くに見えて、遠くまでも見渡せるから。 何よりも、こんな場まで来れる人は殆ど居なくて一人になれるから。 一日に一回は此処に来ている気がする。 +++++++++++++++++++++++++++ 「ちょっと、雷焔様の知り合いだか知りませんけど、図々しいんじゃありません?」 地下から雷焔と出てきて廊下で別れた後の事。 数名の女中さん達にあっという間に囲まれて、人目につかない廊下の隅へと追いやられた。 そして第一声がさっきのセリフ。 はぁ…こういうのは、どの時代でも変わりないんだなぁ… 私が黙っているのが気に入らないのか、更に彼女達は何かを言っている。 「…いい気になっているんじゃないわよッ」 一人の女中さんが振り上げた手が、私の頬へと命中した。 私は避けるつもりも無かったのだから当然だけど。 「…気は済みました?」 わざと低い声を作って冷ややかに言ってみせる。 するとみるみるうちに彼女達の顔が真っ赤に染まった。 まぁ、当然だよね。私もこんな事言われたら余計に怒るよ。 妙に落ち着いた気持ちで彼女達を観察している自分が居る。 毎日の訓練でクタクタになっていて、まともに彼女達に付き合う気力がないんだもの。 さっさと終わらせたい。 …と言っても、これじゃ逆効果かぁ…うーん。どうしたものかなぁ。 「ぁ?皆集まってどうした?」 不意に声を掛けられて、彼女達の肩がビクリと震えた。 「時雨さん」 声を掛けたのは時雨さんだった。 何ともイイタイミング。 「何?フィーアちゃん苛められてるわけ?」 ニヤリとした笑みを浮かべている時雨さんは、何とも興味津々の顔をしていて、明らかにこの状況を楽しんでるみたい。 ほんっと、イイ性格してるよね。 「いいえー。別に、苛められてなんて居ませんよ?彼女達、時雨さんのファンなんだそうです」 ニッコリと笑みを浮かべて言う私も相当イイ性格してる。 最近、時雨さんの苛めっ子体質がうつってきたんじゃないかなぁ… 「えぇ?そうなんだ?じゃぁ、これから俺と遊びに行こうか?」 得意のタラシ笑顔全開で言う時雨さんに、女中さん達は真っ赤になって頷いた。 何処に行くかとかそう言う相談をし出したのを横目に、輪から抜け出した。 「何か、今日は疲れたよ…」 沈む夕日を見ながらボソリと呟く。 彼女達の気持ちも分かるんだけどなぁ…でも、今の状況を利用して傍に居たいとか思っちゃ駄目かな。 「でもなぁ…あぁやって時雨さんと遊びに行く辺り、只のミーハーって気がするんだけど…」 「誰がミーハーだって?」 「あれ。雷焔ー」 「まぁた此処に居るのか。随分気に入ったみたいだな?」 「うん。凄く好き」 「そうか」 笑いながらグシャグシャと頭を撫でる雷焔の顔をじっと見つめる。 「どうした?」 「ううん。雷焔の顔、夕日で真っ赤ー」 宙に浮いている雷焔は、私の言葉で夕日の方へと顔を向けた。 「もうそろそろ全部沈んじゃうね」 「あぁ、そうだな」 その後は黙って二人、沈んでいく夕日を見つめた。 彼女達には申し訳ないけど、いつか来るその日まで傍に居させてください。 この街で一番空に近い場所。 それはお城にある塔のテッペン。 誰にも邪魔されずに、魔王のことなんて忘れて雷焔と二人っきりになれる場所。 この場所が私の一番のお気に入り。 終 |
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