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今日、フィーアと紗那は街の市場へと来ていた。
新しい年も間近に迫ったこの日、市場は沢山の人で賑わっている。

人込みをかき分けながら、色んな食材を見て回る。
紗那とはぐれないように、しっかりと手を握り締めて。


「あ、ママ〜。あれ食べたい♪」

紗那が突然グイっとフィーアの手を引張り、とあるお店を指差した。
その指の指す方向にあるお店は、子供の好きそうな甘いお菓子ばかりを売っているところだった。

「仕方ないわねぇ。あの中から、一つだけよ?」

今にもお店へと走り出さんばかりの紗那に微笑を向けて、頭をポンと撫でた。

「えぇ〜?一個だけぇ?もっと食べたい〜」

「駄目よ。あんまり食べると夜ご飯が食べられなくなるでしょう?一個だけにするか、一個も食べないか二つに一つよ?」

「うぅ〜…じゃぁ、一個だけぇ」

絶対に譲歩してくれ無そうなフィーアの瞳に、紗那は渋々と言った様子で頷くと、目当ての店へと走っていった。

「もぅ。まだまだお子様ねぇ」

呆れたように言って、紗那の背中を追いかけた。
まだまだお子様―――そうフィーアは言うが、紗那は5歳になったばっかりだ。
実際のところ子供そのものなのだ。



紗那にお菓子を一つ買ってあげて、食べながら歩く紗那の手を引いてフィーアが次にやって来たのはマジックアイテムの露天商だ。

店を構えているマジックアイテムショップと違い、露天商のものはまがい物が殆どだ。
しかし、アイテムを見極められる者が見れば、普通のお店では到底手に入らないようなアイテムが破格の値段で売られていたりする。

ギルドで仕事を貰いこなしていたフィーアの目はそこら辺の商人に負けないくらいに確かなものになっていた。それ故にまがい物を掴まされる事は今では殆ど無い。


「あ、これ良いなぁ…雷焔に似合いそう」

数多く並ぶ商品の中でフィーアが目に付けたのは銀細工が施された腕輪だった。
一見普通の腕輪に見えるが、それに施されている細工は魔力の消耗を防ぐ為のものだ。
魔導士の魔力は無限にあるものではない。
これを嵌めていれば少ない魔力で普段と同じ術を繰ることが出来るようになるのだ。

「あっ。これは紗那にいいなぁ…」

次に手に取ったのは赤い石が嵌め込まれている髪飾り。
髪を結わう時に使うものだ。
だがこれもまたマジックアイテムだ。
火の属性との相性を高め、魔術を操るのを簡単にし、火の属性の魔術から身を防いでくれる。
さらに便利な事に、これを付ける事によって火とは反対の属性、水の属性との相性が下がるという訳ではないのだ。

紗那の魔力は水の属性。
火の属性の魔術と相性の悪い紗那にはもってこいのアイテムだろう。

「じゃぁ、この二つ下さい」

フィーアはにっこりと笑って手に取ったアイテムを店主に見せた。

「紗那、これで少しは火属性と相性が良くなるんじゃない?…紗那??」

支払いを終えて紗那に話しかけようと隣を見たが、目当ての人物はそこには居なかった。
慌てて立ち上がり周りを見渡すが、黒い髪をした小さな女の子は何処にも見当たらない。
背が小さい分、人込みに紛れてしまえば中々見つけることは出来ない。
当てなど無いが、紗那を探すべく人込みの中へと分け入った。





探し始めてから暫くして。
フィーアの息も大分上がってきていた。

「紗那ぁ…どこ行っちゃったのよぉ…」

探しても探しても見つからない紗那の姿にフィーアの心は不安でいっぱいになってくる。
この街がいくら治安が良いとはいえ、子供が一人で居て100%安全な場所などないのだ。

フィーアが今にも泣き出しそうに眉をしかめた時、前方に見知った茶色い髪が人の間からチラリチラリと見えた。
そしてその髪の横には黒い髪も。



「っ…雷焔!紗那!!!」

思わず叫びながら二人へと走り寄り、そのまま雷焔に抱きついた。

「なぁに迷子になって泣きそうになってんだ?」

意地悪そうな口調とは裏腹に、優しい笑みを浮かべながら抱きついてきたフィーアの頭を撫でる。

「急に紗那が居なくなっちゃうんだもん!探したのよ〜?」

雷焔の肩に抱き上げられている紗那を思わず睨みつけてしまう。
紗那は悪びれた様子も無く無邪気な笑顔を向けた。

「だぁって、パパが見えたんだもん」

そんな紗那に深く溜息を付いて、紗那の頬をムニっと摘んだ。

「その様子じゃ、買出しまだなんだろう?さっさと済ませて帰ろうぜ?」

「うん」

雷焔の言葉に本日の目的であった食料の買出しをするために、食料品が集まる一角へと向かった。








年が後少しで切り替わろうという時間。
三人は城の一番高いところに座って街の方を眺めていた。

「ねぇ、ママ。まだぁ?」

紗那は待ちきれないと言った様子で、ソワソワとして落ち着かない。

「んー、後もう少しね」

「え〜。まだなのぉ?」

「後もう少しの辛抱だ」

立ち上がった紗那を落ち着かせようと、ポンポンと背中を叩いて落ち着かせる。
フィーアが作った暖かいスープをコップで飲んで居ると、街の方の空が明るくなった。

「来た〜〜〜〜!!!!」

嬉しそうに紗那は立ち上がって、ピョンと飛び跳ねた。
来た、と言っても何かが向かってきているわけではない。
街の方角の夜空に、魔道で出来た光の花が咲き誇り、新しい年を迎えた事を知らせているのだ。
色とりどりの花が夜空を染め、散っていく。
そんな様子に紗那はすっかりと興奮したようで、ワーだのキャーだの奇声を上げている。


空を彩る花の名を魔導花と言う。
魔導花専門の修行を積んだ者しか作り出すことの出来ない、門外不出の秘伝の技だ。
王都魔導士になるよりも魔導花士に憧れる者も少なくはなかった。



「紗那ね、紗那ね!大きくなったらあのお花作る人になる!!」

空が再び静寂を取り戻した時、紗那は大きく手を上げてそう宣言した。
それにはフィーアはクスクスと思わず笑みを零す。

「あら。昨日は世界一のギルドマスターになるんだって言ってなかったっけ?」

「気が変わったのぉ。絶対に大きくなったらお花作るんだ」

今年1年の抱負と言う訳ではないが、そう高らかに目標を掲げた紗那を雷焔は抱き上げた。

「じゃぁ、早く大きくなるんだな」

「うん!」

嬉しそうに頷いた紗那を連れて、城の中へと戻った。

「明日は、一体何になるって言ってるのかしらねぇ?」

二人の後を追いかけて、フィーアは楽しそうに呟いた。

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