【6】 BACK | INDEX | NEXT |
「……えっ…フィリア…エルクス……」 本の最後のページを見つめたまま、私の身体が小さく震えた。 「まさか…だって、髪は綺麗な青く光る銀髪だったし…」 本をそっと閉じてベッドサイドにあるテーブルに置いた。 身体を反転させて仰向けになると、視界を遮るように瞳の上に腕を乗せる。 そして瞳を閉じた。 「…………おばぁちゃん…」 急に眠気に襲われて、いつの間にか眠ってしまった。 * ** *** 『えーん…えーん……』 黒髪の小さな女の子が泣いている……あれは…… 『おやおや。フィーア、どうして泣いているんだい?』 青く光る銀髪の女性…おばぁちゃんだ… 『ヒック…ッあの、ね…ッ…皆が、フィーの事ッ…いじめるの』 膝に顔を埋めて泣く少女。あれは、小さい頃の私。 そう。小さい頃は何時も泣いてばかりいた。 何時からだろう…髪と瞳の事を言われても泣かなくなったのは…。 『フィーア。泣いてはいけないよ』 何時もこうやって泣く私を優しくおばぁちゃんは抱きしめてくれた。 『だって…ック…フィーだって、好きでこんな髪の色…ッしてるんじゃないモン…ッ』 おばぁちゃんはそう言う私の髪を優しく撫でてくれる。 『フィーア。お前は大切な役目を担っているんだよ。その髪と瞳は選ばれた者の証。』 『役目って…なぁに…?』 『大切な、大切な役目を果たすんだよ。だから、誰も持っていないその髪と瞳の色を卑下してはいけないよ。フィーアは選ばれた子なんだからね…』 『おばぁちゃん。フィー、良く分かんないよ…』 『いつか、分かる時が来るよ…』 私を抱きしめるおばぁちゃんの腕が更に力が篭る。 『フィーア…ごめんね。おばぁちゃんを許してね…』 『おばぁちゃん…痛いよぅ…』 『あぁ、ごめんよ、フィーア。……どうか、フィーアにとって辛い戦いになりませんように…』 おばぁちゃんはそっと私の額にキスをしてくれた。 『さぁ、フィーア。夜ご飯の時間になるからお家に帰ろう?』 『うん』 *** ** * ゆっくりと意識が覚醒して、瞳を開けた。 頬に涙が伝っていて、ソレを掌で拭う。 顔だけを横に向けてテーブルに置いてある本に視線を移した。 「やっぱり…おばぁちゃんなのかな…何でおばぁちゃんは黒い髪じゃないの……?」 言葉にしてみても、答えてくれる人は誰もいない。 泣いている私に何時も言っていた言葉。 そしてその時は決まって辛そうな顔していた。 おばぁちゃん…あの時はおばぁちゃんの言葉が分からなかったけど、今なら分かるよ…。でも、きっとおばぁちゃんの願いは叶わないね。 戦いたくないのに戦わなければならないのはとても辛い事だし、それが終われば仲良くなった人たちとも別れなければならなくなる。 ここに来てしまった以上、悲しい事は避けられないだろうから。 「でも、おばぁちゃんの事、恨んだりしないよ。…たとえ最後には別れなきゃならなくなっても、おばぁちゃんが居なかったら出会う事も出来なかったんだから」 いつか来る別れを悲しむよりも、今を大切にしたい。 それは私にとってかけがえの無い日々になるはずだから。 「うん!頑張ろう!」 ガバっと勢いをつけて起き上がった。 「今何時ぐらいだろう…??」 キョロキョロと辺りを見渡してた。 窓から見える空は既に赤く染まっていた。 「あちゃ〜〜〜ずいぶん寝てたみたい。もう夕方だよぉ…」 ちょっとだけ損した気分だけど、気を取り直してベッドから降りる。 「まだ夕飯には時間があるし、ちょっとだけ探検でもしようかな」 そう呟いて、部屋から廊下へと出た。 「はぁ…それにしても、広いよね。お城の中って。」 高い天井を見上げながらのんびりと歩く。 のんびりとしてはいるのだけど…。 実は、迷子だったりする。 どこも似たような廊下に似たような扉。それでもってかなり広いとあれば迷うなって方が無理でしょ。 まぁ、急用があるって訳でもなし。のんびり迷いながら食堂に辿り着けたらいいし。 分からなくなったら誰かに聞けばいい。 「ん…??何か、音がする…?」 耳を澄ませてみると、どこからか、金属がぶつかるような音が聞こえる。 「なんだろう?…訓練所…とか?」 お城の中にどんな施設があるかなんて食堂と図書館以外分かってない。 音を頼りにその場所まで行ってみる事にした。 キィィン…キィィン… 音がどんどん大きくなってきて、大分目当ての場所に近づいてきたっぽい。 どうやら、廊下の一番奥にある場所が音源らしい。 薄く開いている扉から中を覗いた。 「ぅわぁ…」 扉の向こうは、やはり思ったとおり訓練所になっていた。 夕方と言う時間帯と言う事もあって、訓練しているのは二人しか居なかった。 「あ、雷焔だ…もう一人は、騎士…なのかな?」 キィンと剣を合わせてはお互い間合いを取り、タイミングを伺う。 どちらかが動けば、片方も動く。 どうやら、実力はもう一人の人の方が上みたい。 「あっ…」 雷焔の身体が僅かにぐらついて、その隙に相手の剣が雷焔の剣を弾いた。 「勝負あり。だな?」 雷焔の喉元に剣をあてて、その男の人はニヤリと笑った。 「ぁー、参った参った。」 雷焔はヒラヒラと手を振って、降参のポーズをする。 「んじゃ、ちょっと休憩するか。まだ、もう少しやるんだろう?」 「あぁ。悪いけど、付き合ってくれ」 そんな二人の会話が風に流れて聞こえてくる。 不意に男の人が此方を向いて、バチっと視線が合ってしまった。 慌てて隙間から顔を引っ込めると猛ダッシュでその場から立ち去った。 「はぁ…っはぁ……」 無我夢中で走って、どうやって辿り着いたのか、気づけば食堂の前。 別に逃げる事なんて無かったんだろうけど、反射的に走り出してしまった。 それにしても…雷焔もあぁやって訓練したりするんだな。 当然なんだろうけど…。 天才だって言われているから、何もやらなくても何でも出来ちゃう人だって勝手に思ってた。 もしかしたら、資質と魔力が人よりもあるというだけで、あの実力は彼の努力の結晶なのかもしれない。 あぁいう雷焔の姿見ちゃったら、私も頑張らなきゃって思いが強くなった。 「ぅん。頑張るぞ。」 ギュっと拳を握って、軽く頷いた。 「さて、腹が減ってはなんとやら〜ってことで…」 少し早いくらいの時間だけど夕ご飯を食べようと、食堂の扉を開けた。 食堂のテーブルには、交代で仕事を終えた兵士の姿がチラホラと。 これから女官さんとかが増えてどんどん賑わってくるに違いない。 カウンターで日替わりメニューを頼むと、部屋の隅っこの空いているスペースへと腰を下ろした。 …おばあちゃん……かぁ……授業内容について行くのが精一杯で、おばあちゃんとの思い出とかじっくりと思い出す機会なんて最近無かったけど…。 ゴロゴロした野菜が入っているシチューを食べながらぼんやりと昔の事を思い出す。 お母さんが優しくないとは言わないけれど、この髪のせいか他の家に比べると余所余所しかったように感じる。 その代わりに優しくしてくれたのはおばあちゃんだった。 おばあちゃんが居なかったら、きっと今の私は居なかっただろうなぁ…。 柔らかい鳥の照り焼きにフォークを刺して一口。 甘くて優しい味が口の中に広がって、無意識に頬が緩んでしまう。 「あれ…そう言えば…」 おばあちゃんの思い出に浸っていると、ふと思い出した事があり小さく呟く。 『ねぇおばあちゃん。おじいちゃんてどこに居るの?』 『おじいちゃんは、遠い遠いところにいるのよ』 『遠いところ…?おじいちゃんに会えないの?』 『会えたらどんなに嬉しいか…でも、本当に遠い遠い昔に居て、会いたくても会えないのよ』 『おじいちゃん、死んじゃったって事なの?』 『…死んでは……そうね。この時代から言えば、そうなのでしょうね』 『……おばあちゃん。良く分からないよ?』 『…うん。そうだろうね。でも詳しい話は言えないのよ。ごめんね』 そんな過去のやり取り。 謎かけみたいでおばあちゃんの言っていることが良く分からなかった。 思い出した今でも良く分からない。 おじいちゃんて、王様なのよとか冗談みたいにおばあちゃんが言っていた事もあったっけ…。 …ん?王様………? まさか。 まさか、ね。 |