【13】 BACK | INDEX | NEXT
魔王討伐部隊が召集され、連れて来られたのはお城の地下。
それもかなり階段を下りたから地中深くに位置していると思う。


封印されていた扉の先にある階段を降りた先には、地下とは思えないくらいに高い天
井の神殿があった。
更に神殿の奥の奥まで進むと、また封印された扉があって。
討伐部隊はその中へと通された。



「これから始まる戦いは、人間同士の戦いとは違う。未知の相手と戦わなければなら
ない。覚悟は無い者は無理強するつもりはない。即この場から立ち去るが良い」

少し高いところに立ったデューク王がそう言って、集まった討伐部隊を一人一人見渡
していく。
皆、じっとデューク王を見詰めるだけで、誰一人立ち去ろうと言う人は居なかった。

それを見てデューク王は満足そうに笑みを浮かべて更に言葉を続けた。

「この戦いは世には出回っていない。この地上に住む人々が何も知らないうちに終わ
らせなければならない戦いだ。死んでも、英雄になんてなれない。だから、誰一人欠
ける事無く生きて帰って来い。戦いが終わったら、全員で祝杯を上げよう!」

言葉が終わると共に、神殿に男たちの雄たけびのような声が響き渡った。


これから、戦いが始まるんだ…。


僅かに震える手をもう片方の手で包むように握り締めた。


転送装置の周りには、今回の戦いに参加しない魔術師が沢山集まっていた。
どうやらこの転送装置は魔力によって動くらしい。さっき、雷焔が説明してくれた。
魔術師達が一斉に魔力を送り出すと、鈍い音を立てて装置が動き出した。

「あれ…?」

そう私が呟くといつの間にか隣に来ていた雷焔が表情で私に尋ねた。
それに大して何でもないというようにゆっくりと首を横に振り、また転送装置を見つ
めた。

動き出した転送装置は細い穴から光が出て、その先にはお城らしきものが映し出され
ている。
『転送装置』なんて名前がついているからてっきりその通り、転送させるものだと
思っていたけど、どうやら空間を繋ぐ装置みたい。

次々と兵士達がその光の中へと入っていき、とうとう私が最後となった。


「フィーア、頼んだよ」

デューク王が近寄ってきて、ポンと私の肩を叩きながらそう言った。

何て答えたら良いのか分からなくて、ちょっと視線を彷徨わせたら光の先に居る雷焔
と目が合った。
優しそうな、それで居て心配そうな瞳で私を見つめてくる雷焔に笑みを向けた。

「はい。任せておいてください」

デューク王にニッコリと笑みを向けると、私も光の中へと足を踏み入れた。


「あ…消えちゃった…」

後ろを振り返ると、繋がった空間が閉じるところだった。
これでもう、後には引き返せないんだ。
ううん。初めから、この時代に来た時から引き返すことなんて出来なかった。
前を向いて、走っていかなきゃダメだったもの。
弱音なんか吐かない。立ち止まっている訳にはいかないから。




魔王の城の様子を伺ってみるけど向こうから何か仕掛けてくる気配はどうやらないみたい。
城の近くに寄って城を見上げる。


やっぱり…魔王、復活したんだ…。
此処にいても、あの玉から発せられてた気配が感じられる…。


「ねぇ、雷焔。どうやって中に突入するの?」

当然ながら城の門は開いてないわけで。
正面突破というのもどうかと思うし、何か策は考えているのかな?

「あぁ。んなもん決まってる」

ニヤリと不敵な笑みを私に向けて、城の門へと手を翳した。
掌に光がどんどんと集まっていって、大きな球体が出来て…。


ま、まさか?!


声を掛ける間もなく雷焔の手から光の玉が放たれた。

もちろん、魔王の城に向けて。


大きな爆音と共に門から煙が上がる。
その煙が消え去った時、門にはぽっかりと大きな穴が開いていた。


しょ、正面突破…。


愕然としてその穴を眺めていると雷焔から号令が掛って、その穴に向けて皆走り出した。ポンと背中を叩かれて私も慌てて雷焔の背中を追いかける。


「フィーア、俺の傍から離れるなよ?」

「うん」

雷焔の言葉にしっかりと頷いて、城の中へと突入した。


城に入って間もなく、道が三つに分かれた。
どうやらまだ敵が襲ってくる様子もない。


「分かれ道、か。よし。部隊を三つに分ける。一つの道に行って、背後から敵に襲われても困るからな」

雷焔の言葉に時雨さんも頷く。
大きな部隊は三つに分かれることになった。
戦力が落ちるのは否めないけど、雷焔の言う事は最もだと思う。
背後から襲われた日には、挟み撃ちされる可能性もあるから。


「雷焔。私、左の道に行くから」

後、どこの道に行くか決まってないのは私、雷焔、時雨さんの三人だった。
もしかしたら、三人で一緒に行動するのかもしれない。

「ん?何でだ?」

「何となく、この先に魔王が居る気がする」


そう。何となくだけど、魔王の気配が左の方向から感じる。
ううん。私を呼んでいる気がする。
何でだかは分からないけど、魔王は私に会いたがっているような気がする。


「そうか」

雷焔はそれだけ言うと、他の人たちの方へと向き直った。

「いいか?敵は人間じゃない、魔族だ。油断してるとやられるからな。心して掛れ!」

その言葉と共に皆それぞれの道へと向かった。


暫く道を進むと正面から敵がこちらへと向かってきた。
数はそれほど多くないけど後から増えるのだろう。


戦闘開始。


腰に掛けてある剣の柄をギュっと握り締めた。



「はぁっ!」


雷焔と時雨さんが私の傍で戦ってくれるお陰で私の出番は殆どない。
それでも、全部と言う訳にもいかなくて。

生まれて初めて、自分の手で命を殺めた。
例え人間じゃなくても、そこにある命を奪う権利なんて誰にも無いはず。

それでも、やらなきゃいけないんだ。
私が生きるために。自分の未来を守るために。


「フィーア、出来るだけ一撃でし止める様にしろっ。あれだけ厳しい特訓に耐えたんだ。それくらいは出来るようになってる!」

敵と剣を交えながら雷焔が私にそう叫ぶ。
そういう雷焔も相手の隙を見て一撃で床に沈めている。
斜め前方に居る時雨さんもどうやらそうらしい。

「生半可な傷は苦しませるだけだ。思い切りやれよ!」

その言葉に無言で頷いて、襲ってくる敵に向かって剣を振りかざした。


そうか。と思った。

雷焔が得意の魔術よりも戦いに剣を使う理由。
勿論、魔力の消費を防ぐと言う理由は本当だと思う。
でも、別の理由があるのかもしれない。

――――――命の重みを忘れないため。

確信ではないけど、なんとなくそう思う。

剣と違って魔術は遠くに居ても相手を殺せる。
その分、自分がやったと言う気持ちは少ないはず。

私もこうやって戦って、剣を伝って敵を殺める感触が伝わってくる。

本当はこんな戦い、したくは無い。
出来る事なら逃げ出してしまいたい。
でも、逃げない。
今逃げたら、奪ってしまった命が無駄になってしまうから。
逃げるくらいなら、初めからしない方がいいに決まってる。


忘れない。奪ってしまった命を。命の重みを。






「はぁっはぁっ…あの扉の向こうに、魔王が居る」

とうとう此処まで辿り付いた。

傷ついた人を魔導士に任せ、分かれ道毎に兵を分けてとうとう此処に着く頃には私と雷焔と時雨さんの三人になってしまった。
無傷な人達は後から此処に追ってくるかもしれない。
でも、待っている時間など無い。

「大分息が上がってるな。大丈夫か?」

「そうだぞ、フィーアちゃん。少し、休憩するか?どうやら、此処まで来たら敵は襲ってこないみたいだしな」

二人が心配そうな表情で私を伺い見る。
二人は息一つ乱れていない。
私より、沢山動いていた筈なのに。
やっぱり、慣れというものもあるのかもしれない。
初めての私と違って無駄な動きをせずに戦えるのだろう。

「ううん。大丈夫。訓練所100周に比べたら全然軽いよ」

二人に笑みを向けてそう言うと、二人とも笑ってくれた。
二人が居てくれるだけで心強いから。
まだまだ私は戦えるよ。

「んじゃ、行きますか」


「待ちなさい」


時雨さんが一歩を踏み出した時、横の柱の影から女性が現われた。


「チッ!何時の間に!気配が全くしなかったぞ」

二人が顔を歪めて現われた女性を見遣る。
私を背中に庇うようにして睨み合っている。


「扉の向こうに行きたかったら、私を倒してから行きなさい。」

そう言った女性は妖艶な笑みを浮かべた。
その笑みには何の感情も篭っていないようで、ゾクリと悪寒が背筋を走った。

「雷焔、あいつは俺が引き受けた。お前はフィーアちゃんと魔王の元へ」

小声でそう言うのが聞こえてくる。

「馬鹿!お前一人で相手になるような奴かよ」

「此処で全員足止め喰らってもしょうがねぇだろ?心配するな。女性の扱いはお前よりも慣れてる」

「ッ…分かった…死ぬなよ?」

「俺様を誰だと思っているんだ?」

ニヤリと不敵に笑う時雨さんに雷焔も笑みを向ける。

「時雨様様だろ?」

「分かってんじゃねぇか。そう言うことだ、早く行け!」

雷焔の背中を叩いて、時雨さんはその女性へと向かって走り出した。

「フィーア、行くぞ!」

「あ、うん!」

扉に向かって走り出す。
背後では剣を交える音が聞こえてくる。


……時雨さん、どうか無事で。




扉を開けると、広い部屋の向こうに椅子に座っている人が見える。
あれが、魔王?
どう見ても人にしか見えない。
違うとすれば、耳が少し尖っているところかな。

魔王は想像していたのと全然違っていた。
歳を取った姿をしているのかと思ってた。
でも、実際にはとても若い。
実年齢はきっと見た目よりもずっと歳を取っているんだろうけど。

腰まで届きそうな髪は綺麗な蒼。そしてこちらを見てくる瞳は真っ赤に燃えるような赤。見惚れてしまいそうなほど綺麗な顔は、凍ってしまうくらいに冷たい表情をしていた。


「よく此処まで来たな。人間よ。待っていたぞ」


魔王から発せられた声はやはり冷たい響きがあった。

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