Sexy Voiceは危険な罠?! 5
頑張ってみる・・・なんて言ってみたけど、あれから特に何も出来ないまま数日が経っていた。
どうやって行動を起こしたらいいか分らないし、何より、いざとなったら自分が何を言ってしまうか・・・想像しただけでも怖い。
一応は、顔を見て話す事は出来るようになったけど、話す内容は学級委員としての事だけで進展なんてあるはずもなかった。
「ねぇ、かなえ。明日ヒマ?」
「うん?ヒマだよー」
「じゃぁさ、明日ラジオの放送見に行かない?」
「ラジオ?何でまた」
恵美がラジオ聞く趣味があったなんて知らなかったなぁ・・・しかも見に行くって・・・ナニ?
「この学校出身のバンドがゲストとして出るんだよ。私、インディーズの頃からのファンでさぁ」
「・・・あぁ、なるほど。ん、いいよ」
「よっしゃ、じゃぁ12時に駅前集合ね」
「分った。じゃ、明日ね」
頷くと、恵美は足早に教室を出て行った。部活も後僅かだもん、一秒でも長くやっていたいんだろうなぁ・・・これから受験が待っているのだと思うと、ちょっと憂鬱。
「恵美が好きなバンドって・・・る、る・・・・・何だっけ?」
興味ないから名前が思い出せないなぁ・・・
ま、明日恵美に聞けばいっか。
鞄を持つと、教室から廊下へと出た。
玄関へと向かいながら、ちらりと窓から外を見てみる。
何気にここから葛岡先生の居る国語準備室の窓から見えたりして、たまに見たりしてる。
うーん、我ながら乙女チックだよね。この行動。
たまに窓から顔を出した葛岡先生が見える事もあって、ちょっと嬉しかったり。
ん??それって、葛岡先生の見た目も好きって事?声だけじゃなくて??
うわぁ・・・恋は盲目とは良く言ったものだよ。好きになったら全部好きになっちゃうって事だよね。
や、だから見た目は全然好みじゃないんだってば!
・・・って、誰に弁解しているんだろう・・・最近、独り言激しいなぁ・・・
うわぁ・・・凄い人・・・
恵美と一緒にスタジオの前まで来ると、既にミキサールームが見えるガラスの前には沢山の女の子でごった返していた。
「恵美ぃ・・・これじゃぁ、見えないんじゃない?」
「なぁに言ってんの。始まったら前に割り込むに決まってるじゃない」
「えぇ〜?マジで言ってるの?私ここに居るから恵美行っておいでよ」
「生で見るチャンスなんてそうそうないよ?」
「いいのいいの。ここでじゅーぶん!」
あの人込みに入っていくのはちょっと、ねぇ?
想像しただけでも疲れを感じて軽く溜息を吐いた。
僅かに見えるミキサールームを見ていると、パーソナリティらしき人が入ってきて椅子に座った。
長めの前髪を後ろに流していて、結構カッコいいかも。
その後に続くようにゲストであるバンドのメンバーが入ってくると、辺り一面に黄色い声が木霊した。
「うわっ」
思わず耳を塞ぐけど、イマイチ役に立っていないようで耳の奥まで届いてくる。
「凄い人気だわ・・・」
もう少し、遠くに離れていようかなぁ・・・なんて思ったとき、パーソナリティの人の声が聞こえてきた。
『ミュージックカフェの時間がやってまいりました。今日は素敵なゲストが見えているだけあってガラスの外に沢山の人が集まって来てるね。早速ゲストの紹介・・・と行きたいところだけど、まず最初のリクエスト曲をお送りします――――』
ゾワゾワっと鳥肌が全身を駆け抜けるのを感じた。
何?!あのフェロモン全開って感じの声は!!!甘さを含んだバリトンってやつ?
それに、あれは――――
「ねぇ、恵美。あのパーソナリティの人・・・」
「ん?あぁ、ケイ?カッコいいよね」
「うん、カッコイイネ・・・ってそうじゃなく」
「あっ、ゴメンちょっと前行ってくる!」
「行ってらっしゃい・・・」
ヒラヒラと手を振って、戦地に赴く恵美の幸運を祈った。
ボロボロになって帰って来ないようにネ?
少し離れたところにある花壇の端に腰を下ろして、スタジオの前の人込みを眺める。
ここに居てもラジオの放送は聞こえて来て、そっと目を閉じた。
『いやー、ホント凄い人気だよね。デビューしたてとは思えないくらいだよ』
『ありがとうございます。まだまだヒヨッコなんで、頑張ります』
『ケイさんのお力でビッグにしてくださいよ』
『ハハッ。俺の力じゃ、そういうのは無理だなぁ・・・またゲストに来てくれるのは大歓迎だよ』
『もちろんですよ。是非また呼んでくださいね?』
『次にオファー掛けた時に忙しすぎて無理です・・・とか断らないでくれよ?・・・そろそろお別れの時間が近づいて来ました。本日のラストは彼らのデビューシングル『sunny
place』―――』
「かなえ、ゴメンネ」
番組が終わって、出待ちまでキッチリと終えた恵美が笑いながら近づいてきた。
「いいよー。私も、結構楽しめたし」
「そ?なら良いんだけど・・・あー、喉乾いた。どっかでお茶しよっか」
「さんせーい」
スタジオから少し離れたマックでお茶をする事にした。
ストローをガジガジと噛みながらアイスウーロン茶を飲んでいると、恵美が『そう言えば』と口を開いた。
「さっきケイがどうのって言ってなかった?」
「うん」
「気に入っちゃったの?」
「いやぁ、あの声がね?」
「声って!出たよー。かなえの声フェチが」
ケラケラと笑いながらからかう様な視線を向けてくる。
「むー。違うよ、確かにフェロモン全開〜って感じの声で素敵だったけどさぁ・・・」
「そう言われてみれば確かにフェロモン全開って感じだわ・・・葛岡先生じゃなくて、ケイに乗り換えるつもり?住む世界が違うから、出会いなんてないよ?」
「いやいや。出会いなんて求めてないから」
なんて、恵美と笑いながら喋っていたけど、心中穏やかじゃなかった。
平静を装ってた自分を褒めてあげたいくらいだわ。
事態って、どう転ぶか分らないんだなぁ・・・身をもって体験した一日だった。
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