幾千の時を越えて 1
目が覚めたらそこは…ベッドじゃなく道のど真ん中でした。
………なぁんて。
冗談だったら良かったのにぃぃぃっ!!!
なんで?どうしてっ?!
私、確かに昨日家に帰ったよね?
じゃぁ、私の目の前に広がる青空は何?
ってか、それよりもっっっ
私、知らない男の人達に身体を押さえつけられてるって、何じゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!
もしかして、私やられちゃうの?!
いやぁっ!まだ誰ともしたことないのにっ!
こんなことになるなら苦手でも、適正ゼロでも、攻撃魔法勉強しておくんだった!!
暴れてみても、ビクともしない。やらしい顔で男達が見下ろしてるのなんて、気持ち悪すぎるっ。もーこうなったら最後の手段だ。
「キャ〜〜〜〜!!!誰か助け…ムグッ」
叫んだ途端に口を塞がれた。
まぁ、当然だよね……。
あぁ、もう私もこれまでなのね…。
まだ見ぬ私のダーリン、こんな奴等にバージンを奪われてしまう事をお許しください。
とか、そんなこと思ってるうちに男の一人が私の内腿に手を滑らせた。
その途端、ゾゾゾっと背中を悪寒が走りぬける。
やっぱりっ初めては好きな人とがいいよォ!
ジタバタと押さえつけられる手足を動かしながらギュっと目を瞑った時、フッと身体が軽くなった気がした。
恐る恐る目を開けてみると、気だけではなくて、実際に上に乗ってた男が居なくなってた。
足元に目をやると、男が飛んでいる最中で、誰かが男達に魔法を放ったみたいで…。
「えっ??」
身体を押さえつけていた男が全員居なくなったから、慌てて立ち上と、起き上がった男達が見つめるその方向へと私も目を向けた。
「ぁんだ?誰だ、てめぇは」
「誰かって?この俺の顔を知らねぇなんて相当のモグリだな」
威嚇するように低い声を出す男に向かって、呆れたような声を出したのは、新たに現れた男の人。
腰に手を当てて、長身を利用して上から見下ろすようにして、口元にはニヒルな笑みが浮かんでて……。
やだ、あの人カッコいいv
髪の色は薄い茶色で、凄い柔らかそう。それに、瞳は瑠璃色で宝石みたい。身長は170後半くらいかな。
…って、さっきまでピンチで泣きそうな状況だったのに、私ってば能天気すぎる……?
「お、お前は…もしかして、雷焔?!」
「ピンポーン♪大正解。どーするよ。俺と喧嘩してみるか?」
ライエンとか言う男の人の事を悪者三人組は恐れているっぽい。
そんなに有名な人なのかな……?
ニーッと笑みを浮かべて男達を見遣るその様は余裕綽々。
実際に三人で掛かって来られても大丈夫だと思っているのが見ている私にも伝わってくる。
「バ、バカヤロウ。誰がお前なんか相手にするかっての!」
「そんなペチャパイ、あんたにくれてやるよっ!」
そう言って、男達は一目散に駆け出して、その背中がどんどんと遠ざかって行く。
何とも情けないその背中を大人しく見送る…なんてするわけがない!
「なっ…なんですってぇ?Cカップの私に向かってペチャパイですって?!聞き捨てならない!許せないんだからァ!」
捨て台詞にぶち切れた私は、叫びながら手を男達に向け素早く口の中で呪文を唱える。
手のひらから男達に向かって閃光が放たれ、閃光をまともに食らった男達は叫び声を上げた。
「あっ…さっきもこうして逃げれば良かったんだ…」
地面に再び崩れ落ちた男達を見つめて今更ながらにそんなことを呟いた。
「おお、すげぇな。何やったんだ?」
助けてくれたカッコいい人…多分、雷焔サン…が側に寄ってくる。
「あっ、助けていただいてどうもありがとうございました!」
深々と頭を下げるとその人は笑顔を向けてくれた。
…笑った顔も可愛くてイイカンジじゃない?めっちゃ好みだし。
「あっ…これは身体を痺れさせただけなんです。さっきもこうすれば逃げられたのに…攻撃魔法の事しか考えてなかったから全然思いつかなかった」
肩を竦めて小さく舌を出した後、倒れている男達に近寄ってツンと突付いてみる。
「うわっ!止めろ!突付くな!」
そうよね。足とか痺れた時に突付かれると凄い辛いよね。足だけじゃなくて全身痺れてるもん。カナリ辛いよねぇ。
さっきまで私を押さえつけて自由にしようとしてた奴等に仕返しが出来るなんて、思わずニンマリしてしまう。
「フフンだ。私のことを怖がらせた仕返しよ。お嫁に行けない身体にされるところだったんだから」
男達にベーっと舌をだしてやった。
「まぁまぁ。そいつらのことは放って置いて。ところで、その髪の色は本物か?」
その声に、立ち上がって助けてくれた人を見上げた。
ん?珍しいのは分かるけど…随分と唐突な質問ねぇ…。
「あ、はい。地毛ですよ」
とりあえず、嘘をつく必要はないわけで。コクリと素直に頷いた。
私の髪の色はツヤツヤに光る黒。全世界、どこを探してもこの髪の色をしている人物は居ない…ハズ。母親の髪の色は綺麗なグリーン。父親は金色。
それなのに、何故か生まれた私の髪は黒だった。貰い子だとか、悪魔の子だとか散々苛められたけど、日に当たると青っぽくも紫っぽくもなる自分の髪が大好きなんだ。
「そっか。俺はライエン。雷焔・ランドックだ。雷焔と呼んでくれ。お前の名は?」
「私、フィーア・エルクスです」
「フィーアか。これから、少しの間俺達と共に過ごしてもらうことになる。よろしくな」
唐突に雷焔がそんな事を言い出し、びっくりして目を見開いてしまう。
「えっ。それって、どういうことですか?俺達って、雷焔さんしか居ないですけど…」
って、突っ込みどころはそこじゃないでしょうが、私よ!
「『さん』は付けなくていい。フィーア。ここが何処か分かるか?」
そう言われて辺りを見渡してみる。
えっと…街の裏路地…って感じ…だよね。私、道の上に寝ていたの?夢遊病の気でもあるのかな…。
うら若き乙女が道端で寝てたら襲われても文句は言えないかも……。
「家のベッドで寝てたハズなんだけどな…ここって、エクスローディスでしょ?」
そう言ったら、雷焔がちょっと驚いた顔した。
ん?何かおかしな事言ったかな??
不思議に思って首を傾げると、雷焔はそれを気にした風もなく、腕を組んで口元に手を当てた。
「へぇ…伝説の少女ってのはこの国の人物ってことか…?それとも、人違いか。ここら辺に時空の歪みが出来たのは確かなんだし…それに、どうあがいても髪は黒に染められないからな…」
雷焔てば、ブツブツ独り言いっちゃって。というか、全部丸聞こえですけど……。といっても、言ってる事の半分も理解できないんだけどね。
「あのー…雷焔?話が見えないんですけど…」
「あぁ、すまん。いきなりで悪いが、フィーアにはこれから王都に向かってもらう」
「えぇっ?!王都?だって、ここは水の都、アクアリスでしょ?王都に行くなんて、早くても一ヶ月はかかるじゃない。そんなに留守にしたら、勉強もついていけなくなっちゃうし、両親だって心配するわ」
いきなりなんて事言うの?!知らない男の人に着いて行くわけないじゃない。子供じゃあるまいし。
助けて安心させておいて、何処かにさらって行こうってつもりじゃ…。
あっ!もしかして、さっきの奴らとグルなんじゃないの??
「とすると、フィーアはアクアリス出身って事か?」
「そうよ。生まれも育ちもアクアリスよ」
雷焔は、私が疑ってるなんて思ってないみたい。気づかれないように、取りあえずは普通の振りしてなくちゃ…。
雷焔はちょっと眉間に皺を寄せて私を見ている。その表情は真剣そのもの。
…なんだろう?変なこと言ったかな…?
「そうか…残念だが、ここはアクアリスじゃない。王都から徒歩3日ほどの距離にある村、リューネだ」
「リューネ…?そんな村、聞いたことないけど…」
地図にだってそんな村は載ってない。
見たところ、それほど小さい村って訳でもないし、地図に載っていないなんて事はない筈。
……やっぱり、この雷焔って人危険な人なんじゃ…。
「へぇ…リューネを知らない、ね。…あぁ、そう身構えるなって。嘘だと思うなら、取りあえず大通りに出て、そこら辺歩いてる奴捕まえて聞いてみれば?ついでに…俺の事もな」
そう言われてしまえばそうしようかと、頷きかけてハタと気づく。
……寝巻き姿なんですけど。古着のワンピースだから問題はないけど…しかも、裸足だし…。
やっぱ、ベッドで寝てていつの間にか此処に来ていた、というのが正しいのかな…。
そんな事を思いながらも、どうしようかと考える。
チラ、と目の前に居る雷焔を見て、視線を逸らす。
靴、どうにかしたいなぁ…なんて言ったら、迷惑かなぁ…。
またチラ、と顔を窺ったところで雷焔が片眉を上げた。
「…どうした?」
「あのぉ…裸足なの、どうにかしたいなぁ…なんて」
躊躇しながらそう申し出ると、私の足元へと視線を向ける。
再び私の顔を見て、訝しげに眉を寄せた。
「靴、どうした?あいつらに取られたか?」
言いながらあたりを見渡しているけど、靴の影なんてどこにもない。
ソレはそうだろう。だって私は…。
「家のベッドで寝ていたハズなのよね、私。気づいたら此処で寝転がって襲われていたわけで、つまりは、初めから履いていなかったと言うか…」
そこまで言えば合点がいったようで、寄せていた眉を元に戻すと頷くように顎を引いた。
「まずは靴の調達だな」
「…でも私お金持ってない」
「ンなもんは俺が買ってやるよ」
「えっ、でも悪い…ひぁぁぁっちょ、雷え、お、おろし、て…」
「馬ァ鹿。裸足で歩かせられるかっての。良いから首に腕回しとけ」
そう言って雷焔は気にした様子もなく表通りへと向かって歩き出す。
落ちないように慌てて首に腕を回したのだけど、まさかまさかの…人生初のプリンセスホールド……。
あぁ、もう……このまま昇天しちゃってもイイ。
大通りに出れば、人気のなかった裏通りが嘘みたいに沢山の人で溢れていた。
そんな中、お姫様抱っこで運ばれる私。
どんな羞恥プレイよこれ。
道行く人達からは大注目され、靴屋のおばちゃんに至っては質問の嵐。
おばちゃん、恐るべし……。
そんな中、雷焔は一人涼しい顔をしていたのだけど。
こういう事、慣れてる……のかなぁ…。
そうだよね、カッコいいモンね。
私ってば何を期待しているのやら。
しょんぼりしてしまったのだった。
可愛らしいブーツを買ってくれた雷焔にお礼を何度も言って、今度こそ気を取り直して道行く人に突撃質問。
この村の事、雷焔の事……。気の済むまで沢山の人に質問しまくった。
変な人だって顔されても気にしないで、何回も、何回も。
返って来る答えは全部一緒。
そして私は途方に暮れたのだった。
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