幾千の時を越えて(番外編) 愛しき日々
「リサちゃん、今日も可愛いな!」
「うふふ。ありがとう」
「セリルちゃん、彼氏に飽きたら何時でも俺のとこに来いよ」
「その時はお願いするわ」
沢山の人が賑わう市場で、会う女性会う女性に声をかけまくっている赤髪の男。
しかも、声を掛ける女性全員が知り合いのようだ。
「一体本命は誰なの?時雨さん」
その光景を後ろを歩きながら見ていたフィーアはやや溜息交じりでそう声を掛けた。
時雨は素早い動きでフィーアの元に来ると、両手で包み込むように手を握った。
「俺の本命はフィーアちゃんだぜ?」
極上の笑みをフィーアに向ける。
その笑みを目の当たりにした回りに居た女性は赤面し、その場に立ち止まった。
それを向けられたフィーアと言えば…
「はいはい。冗談はいいですよ。もぅ、時雨さんてばいっつもそれなんだから」
既に見慣れてしまっているのか、なんとも思っていないようだ。
「…ろくな男じゃねぇな」
二人のやりとりを静かに見守っていた雷焔が、ボソリと呟いた。
「ぁーん?雷焔には言われたくねぇな」
時雨はフィーアから離れると、今度は雷焔へと詰め寄った。
「何言ってんだ?俺はフィーアにはまだ手はだしてないぞ」
「まだって何だよまだって。それに、俺だってまだフィーアちゃんに手は出してねぇよ」
「フィーアに手を出すなよ?お前の病気が移ったらどうする」
「俺は病気持ってねぇっつの!それに、色んな女を抱いては捨て、抱いては捨てってしてんのはお前の方だろう?寧ろ、その傷心の女性達を慰めてる俺は優しい奴だろ?」
「捨ててるって人聞きが悪い。向こうが勝手に俺に愛想つかすだけだろ。それに、傷心の女性の心の隙間に入り込むような真似してるお前の方がロクでもないっての」
「何だと?!」
「ぁ?やるのか?」
馬鹿らしい内容を本人達は本気で言い合い、仕舞いには剣の柄に手を掛けた。
「どっちもどっちです!!!」
その光景を呆れた様子で見ていたフィーアは我慢しきれずにそう叫んだ。
クルリと踵を返していまだじゃれ付く二人を置いて歩き出した。
「あ、フィーア」
「フィーアちゃん、置いてくなよ!」
情けなくも慌てて二人はフィーアの背を追いかけた。
フィーアはそんな二人に小さく笑いを漏らした。
こんな馬鹿げた日常でも、フィーアにとって愛しき日々。
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